〜寿也へ……吾郎より〜 全8P
「これって、赤いリストバンド……それも………」
そう語りながら、箱内の確認を続けた寿也によって明確な結論が出される。
「全く同じのを……1ダースも………?」
まるで、店頭に置かれている箱をそのまま買ってきたような中身に、吾郎の方を向いた寿也には思わずの苦笑が浮かんでしまった。
が……そんな寿也の様子を見ても、何も感じていないらしい吾郎からの言葉が返される。
「だってよぉ、いつも寿は赤いのをしてんじゃん?好きだからなんだろ?」
「それは……確かにそうだけど……。こんなに沢山くれるなら、色んな色とか種類があっても良かったんじゃない……?」
「そんなの思い付かなったんだから、仕方ねぇだろ?それに、一色だけの方が頼みやすかったしな?」
「え……た、頼むって……。あ、そっか……君はケガで動けなかったから、これを買うのは誰かに頼んだって事?」
「ああ。家からこっちに戻る前に、母さんに頼んで買って来てもらったんだよ」
「そっか……だから、こんなにちゃんとしたラッピングが……」
あまりに綺麗なラッピングまでされていた理由が、吾郎ではなく桃子の用意した物と知って納得ができた寿也。
1ダースの中の1つを手に取り、リストバンドに付いているブランドマークを見てから、嬉しそうな笑顔での言葉を続ける。
「大事に使わせてもらうよ。これって僕の好きなブランドだしね」
「へえ〜そりゃ偶然によかったな?俺は、赤いリストバンドを買って来てくれ、としか母さんに伝えなかったからよぉ、こんなにいっぱい入ってるとも思ってなかったしな」
あっけらかんとした口調での吾郎の言葉に、寿也の目が丸くなる。
そして……今の言葉を含めたここまでの吾郎の言葉を考察し、笑顔を浮かべた寿也から冷ややかな口調での質問がされた。
「つまり、君は……ブランドや数を考えたわけでもなく……赤いリストバンドの提案以外は何もしなかったって事だね……?」
「へ………?」
この口調で、笑顔を浮かべる寿也の恐さを知る吾郎の動きが……ここで固まる………。
その後………
寿也の指示で机に座らされた吾郎は、持ちなれないペンを手にして叫び続けているのだった……。
「寿〜〜!!もう、いい加減に勘弁しろっての〜!大体、なんで俺がお前のイニシャル書かなきゃいけねぇんだよ〜!?」
裏返したリストバンドの一つ一つに、必死にペンを走らせながらの吾郎からのその言葉……。
それには、吾郎が逃げないよう、そのすぐ背後に立つ寿也からの声が返される。
「ダメダメッ……!せっかくの君から僕へのプレゼントなんだから、せめて吾郎くん自らの手でイニシャル位は書いてもらわないとね?」
「なんでだよっ……!?これ、すっげぇ〜書きにくいんだぞっ!?寿もやってみろっての……!」
タオル生地のような素材で出来ているリストバンド……それに字を書く事は確かに容易では無いはずだ。
それを理由に、早々に今の作業から逃れたかった吾郎に、寿也からの答えが返された。
「…知ってるよ、そんな事………。けどさ……たまには、吾郎くんが僕の為に頑張ってくれてもいいんじゃないかな……?」
腕組みをしたまま吾郎を見下ろし、そう語った寿也……。その、妙に落ち着いた声を聞き、吾郎の体は再び固まる。
そして……その後で、吾郎の顔を覗き込んだ寿也からの言葉が続けられた……。
「ペンで書くのが嫌なら、刺繍でも構わないよ?」
にっこりと笑いながらのその言葉が、決して冗談では無いと感じた吾郎……。
その為に、口元を引きつらせながらの吾郎からの言葉が返された。
「…わぁ〜ったよ………ちゃんと、書きゃいいんだろ………?」
どこか腑に落ちないものを感じながらも、今までずっと寿也の世話になってきていた事実と、今チクチクと背中から感じる寿也の視線によって、手を動かさないわけにはいかなくなっていた吾郎……。
そんな書き物をする(と、言うほどのものでもないが……)滅多には見られない吾郎の背中を見つめながら、寿也には微笑みが浮かぶのであった……。
(このリストバンド………僕にとって、すごく大切な物になるだろうなぁ………)
その後の海堂での公式戦の全てで、寿也の手首に必ず存在していた赤いリストバンド……。
そして実は……今後も長く続いてゆく寿也の『野球』人生の中で、この吾郎による手書きイニシャル付きのリストバンドとは長い長い付き合いになってゆくのだった……。
しかし………それをまだ、寿也自身が知る由もない今日……それは………
9月9日……佐藤 寿也 17才の誕生日であった………。
end
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あとがき
寿也、ハッピーバースデー!!の、明る〜いのりで書きたかったのですが………
意外にシリアスな方向にいってしまった作品でした(苦笑)
そして、私の作品の中では3年間の月日を一緒に過ごしたゴロトシの2人なので、親密度は原作よりもかなりアップしてるようです(笑)
原作では、1年ほどで吾郎と離れた寿也ですが……
吾郎の性格を良く知り、それを認めて海堂を去る事を自分の中でも認めた寿也……。
けれど私の中では、あの出来事は家族に捨てられた過去を持つ寿也にとって、相当なダメージであったに違いないとどうにも思ってしまってました……。
実は、そんな寿也にずっと吾郎が側にいたら……?と、思ったのも、私のこの勝手な吾郎海堂卒設定の理由の一つなのです。
そして……吾郎の方こそも、寿也がいる海堂に残ったら……?
な、妄想の結果……原作よりも、高校時代に超パワーアップしてしまった2人になってしまいました〜(笑)
寿也のキャラの幅はとても広くて書きやすい……
明るめも、暗めも、おふざけも、シリアスも、その他もろもろも……
もう〜〜寿也ってば、間違いなく超大物イケメン俳優になれるって〜〜絶対……!(笑)
なんて言ってる私ですが、皆様それぞれに寿也へのイメージがあると思います。
私のものとの大きな相違があった場合は、どうぞご容赦下さいませ。
あ……それを言ったら、全てのキャラとの相違もあると思いますが(苦笑)
ここまでのご閲覧、誠にありがとうございました。
悠 真那より
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