〜寿也へ……吾郎より〜 全8P
自分が好きでやってきた事を、感謝して貰えた幸せ……。
自分の存在を、誰かに必要とされている幸せ……。
そういった事を「幸せ」だと感じるようになったのは、まだ少年だったあの過去の日の出来事があってからだ……。
両親に置いていかれたあの日から……自分は要らないものなのかも……と……どこかで思う癖がついてしまった。
何かにぶつかった時……側にいてくれる誰かを頼りたくなっても、そんな自分の弱さを見せる事で捨てられるのでは……?という恐怖心が沸くようになってしまったのだ。
そして……いつの間にか出来るようになったのは、自分の弱さを隠す為の笑顔を被ったポーカーフェイス……。
時が経つごとに、ますます得意になってきていたその「偽り」の笑顔……。
だったの……だが………。
海堂に入学し吾郎と過ごしている間に、「偽り」ではなく自然と笑えている事が多くなった自分に気付いた。
本気で怒る事も……悲しむ事も……そして、寂しいと告げる事さえも………。
今までは人に見せられないと思っていた、そんな自分の負の部分の全てを、吾郎になら見せる事が出来るようになっていた。
そのおかげで……徐々にではあるが、周囲の仲間達とも自然なままの自分でいられる時間が増えてきていたのだ。
もう……自分にとって、無くてはならないと感じている吾郎の存在……。
本来、家族から貰えるはずのものを、寿也は目の前の吾郎から受け取っている気がしながら、海堂での日々を過ごしてきていたのだった……。
「ありがとう……吾郎くん………」
「本物」の笑顔を浮かべた寿也からの「ありがとう」の言葉……。
それは寿也にとって、数えきれない程の意味を含んだ「ありがとう」なのだった……。
「あ……?な、なんだよ……礼を言ってんのは、俺の方だぜ??」
当然……寿也からの意味に気付くわけもなく、呆気にとられた顔となった吾郎……。
それを、小さく笑ってからの寿也が答える。
「このプレゼントの事だよ。開けて見てもいい?」
「おう……!いくら考えても、何がいいのかは全くわかんなかったからな。期待はすんなよ?」
「もう……何それ……?そんな風に言われると、開ける楽しみが減っちゃう気がするんだけどなぁ……」
くったくのない笑顔の吾郎からの言葉に呆れながら、リボンとラッピングを丁寧に外し始めた寿也……。
そして、開けられた箱の中身は……。
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