〜寿也へ……吾郎より〜 全8P
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その後………
入浴もすませ、温まった体で私室に戻った吾郎と寿也……。
夕食までは十分な時間があるので、しばらくはここでのんびりと過ごす事とした。
まだ暑い日差しが残る外の景色を眺めながら、私室の窓辺に立った寿也が思う……。
(…吾郎くん……きっと、変に思っただろうなぁ……。最近は、吾郎くんのメンタル面を心配してたけど……僕こそがもう少し鍛えないと……)
1人、真面目に考え始めてしまった寿也……。そんな寿也の様子をよそに、吾郎は……と言うと……。
これから自分がしようとしている事の方のみに気持ちがあり、寿也が考え事をしているなどと思いもしていなかった。
(寝る前にでも、渡しゃいいと思ってたけどよぉ……。気になって仕方ねぇし、今、渡しちまった方がいいのかもな……)
そう思った吾郎は、早速、自分のクローゼットへと向かう……。
そして………
「おい、寿……!」
窓辺での考え事を続けていた寿也に、背中から掛けられた声……。
吾郎から、先ほどの事を問われると思った寿也は、恐る恐る振り返った。
「何……吾郎く……ん………えっ……?」
振り返るなり驚き顔となった寿也の目の前に、綺麗にラッピングされリボンまでかけられた箱が差し出されている。
そして吾郎から、自らが無造作に片手で差し出しているそれへの説明となる言葉が付け加えられた。
「今日……寿の誕生日だろ……?今年は、ちゃんと覚えてたぜ?」
照れ臭さで、顔は横を向いたままの吾郎からのその言葉……。それに、寿也からの声が返される。
「あ……そうか……今日って9日だっけ……?県大会初戦って事で頭がいっぱいで、僕自身が忘れてたよ……」
吾郎からの箱を受け取りながら、目を丸くした寿也。その寿也よりも、目が丸くなってしまった吾郎からは文句が叫ばれる。
「はあぁ〜?なんだよ、それ……!去年は、忘れてた俺にさんざん文句言ったくせによぉ〜!?」
「アハハッ……!去年の吾郎くんは、忘れてたんじゃなくて知らなかっただけでしょ?あの時は、ちょっとからかっただけだったんだよ」
「んだよ、それ……!ちぇっ……でも、まあいいや……」
一度はジト目で寿也を睨んでから、表情を笑顔に戻した吾郎の声が続く。
「今年はよ……誕生日を祝うだけじゃなくて、この夏中、ずっと寿に世話になりっぱなしだった礼も言いたかったからな……」
「え……?」
「だって、そうだろ……?お前には、俺のリハビリに付き合わせたせいで、夏の予定を潰させちまってさ……マジに悪かったよ……」
「そ、それは、吾郎くんが謝る事なんかじゃないって前にも言ったじゃないか。それに僕は、自分がこうしたくてやってきた事なんだから」
「お前は、そう言ってくれっけど……俺が、今ここまで回復できたのは、寿のおかげだと思ってるんだぜ……?あのまま家にいたら、きっとこうはいかなかったよ」
「吾郎くん……」
「海堂(ここ)に来てから、お前には甘えっぱなしだけどよ……卒業までは、付き合ってくれよな?」
最後まで……照れた表情ながらも、寿也の瞳から目を離さずに感謝の言葉を語った吾郎……。
その吾郎の言葉と、瞳に……寿也の方も目が離せないままとなっていた……。
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