〜寿也へ……吾郎より〜 全8P
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バタアァァン………ッ!!
普段は有り得ない乱暴さで、力いっぱいドアを開け放った寿也。
その音は、開けたドアの先にあるプール内のロッカールームで大きく響き渡った……。
パッと見渡した限りは人影がない……と、思われたその場所であったが、奥の方より、あまりの大きな音に驚いた人物からの声が返される。
「だっ、誰だよ、すっげえドアの開け方してんのはっ……!?」
ドア付近からは死角となっている、プールサイドへと入る為のシャワー辺りから聞こえたその声……。
それに瞬時に反応した寿也が、その場所に向かって駆け出す……と………。
そこにいたのは……アクアウォーキングをしていたプールから上がり、ロッカールームに入る前にシャワーを浴びていた水着姿の吾郎……。
突然、目の前に現れた寿也の姿に、思わず目を丸くした吾郎の声がかけられる。
「と、寿……!なんだよ、もう帰って来てたのか?俺も、そろそろだと思って、今………」
と、そこで、驚きにより止まった吾郎の声……。
それは、シャワー中の水しぶきの中にも関わらず、自分へと抱き付いてきた寿也の行動によるものであった……。
「とっ、寿也……!?お、お前……何やってんだよっ……!?」
「吾郎くんが……いなくなったと思った………」
シャワーの水をかぶったまま目をつぶり、吾郎にしがみついたままの寿也からのその答え……。
それには、更に目を丸くした吾郎からの怒鳴り声が返される。
「はあ……っ!?俺が一体、どこに行くってんだよ!?つか……バッカヤロ〜〜!!お前、その格好でずぶ濡れじゃんかよっ……!?」
その言葉に、ようやく吾郎から離れた寿也が、呟くように声を発した。
「あ……そ、そっか……まずいや……ユニフォームのままだっけ………」
珍しく赤面し、未だにシャワーに濡れたままの背番号「2」のユニフォーム姿の自分を見下ろした寿也……。
ここで慌ててスイッチを押した吾郎によって、シャワーの水が止められた。
「おいおい……どうしたんだよ、寿……。まさか、試合に負けておかしくなったとか言うんじゃねぇだろうな……?」
「ア、ハハッ……まさか……!試合は、コールド勝ちだったよ」
頭を掻きながらそう告げた寿也に、ジト目となった吾郎の声がかけられる。
「たくっ……!んじゃあ、なんでこんなボケた事やってんだよ!?とりあえず、そこで濡れちまったユニフォーム脱げよっ……!タオル、持ってきてやっから」
「う、うん……ごめん、吾郎くん……」
少し俯き、謝った寿也がびしょ濡れになってしまったユニフォームを脱ぎ始める。と………
バサッ………
ちょうど上半身は脱ぎ終わった寿也の頭から、吾郎により投げられたバスタオルがかかった。
「俺はざっと拭いたから、あとは寿が使えよ。で……部屋に戻ったら、冷えちまわないうちに一緒に風呂に行こうぜ?」
親指で出口を差しながらの、笑顔の吾郎からの言葉……。
かけられたバスタオルで髪を拭きながらの寿也は、それに頷き、心の底からの安心した笑顔を浮かべたのであった……。
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