〜初めて見る後輩〜 全38P

「なんで、そんなの決め付けてんだよ……?とりあえず誘ってみる位、すりゃいいのに……」

「さ……そうって……な、なんで、あたしがそんな事しなきゃいけないんだよ……!」




真っ赤になった薫の動揺気味の言葉を聞き、超呆れ顔で腕を組んだ大河。

いまだにベットに座ったまま、自分を睨むように見上げている薫へと言葉を続ける。




「じゃあ、聞くけどさぁ……驚くほど姉貴に聞いてた通りだった、あの『野球』に熱い人の方から動いてくれたりするのかよ……?俺には、全くそういうタイプには見えなかったけどね」

「………………。」




何か反論の言葉でも発しようと微かに口は動かしたものの、結局は声を出せずに終わった薫……。

それは大河の言った事が、まさにその通りであったからだ……。



そして……だ……今まで、大河に自分が吾郎の事を好きだなどと言った覚えはない……。

それなのに、だいぶ以前から大河は自分の恋愛対象を吾郎と決め付けて話をしてきていた。

当初はしっかり反論をしていた薫であったが、その後も決して吾郎以外の名前をだそうとしない大河に対し、今はもう誤魔化す気にもなれずにいる薫なのであった……。



そんな大河に言われなくても……わかってる……吾郎から動くタイプなどではない事は………。

そう、わかってる……吾郎にとって恋愛が重要でない事も……そして……自分が恋愛対象ではない事……も………。



そんな事を考えながら、徐々に俯き加減になってしまっている薫……。

その姿を見て、いきなりあおり過ぎたかも……と、感じた大河が、反省の念から頭を掻きながらの言葉をかける。




「茂野さん……彼女はいないって言ってたぜ……?そう言ってるうちに、少しでも姉貴から動いてみた方がいいと思うけどなぁ……」

「え……た、大河……お前ってば、そんな事まであいつに聞いたりしたのかよ……?」

「いや、まあ……それは、話の伏線でたまたまなんだけどさ……?とりあえず、姉貴にとっては良かったじゃん」




そう言うと、少し照れくさそうに横を向いた大河。




「…大河………」




そんな大河の様子を見て、薫には嬉しそうな微笑みが浮かぶ。

2人だけの姉弟……。幼い頃より生意気だった弟とは、お互いに成長した今でもケンカをする事が多い……。

だが………。

常に生意気な言動や態度をとるその行動とは裏腹に、実は心根の優しい弟なのだと……姉はずっとそう思ってきたのだ……。




「今の電話で、本田がさ……?大河と『野球』やるのを、楽しみにしてるって伝えてくれって言ってたよ?」

「え………」




目を丸くした大河の頬が、嬉しさで紅潮し始める……。その目を、弓状に細めた大河からの言葉が続いた。




「ほんと……姉貴の話し通りの人だったよ、茂野さんは……」




そこで一度、間が空いた大河の言葉……。その続きを待つように、薫が大河の顔を見つめる。




「俺なんか……今日、初めて会ってちょこっと一緒に『野球』しただけなのに、妙に楽しくなっちゃってさぁ……?実力も半端じゃねぇから、勝負しててえらく熱くなってきちゃたもんなぁ……」

「あ……ああ〜〜そうだよっ……!?お前、本田と勝負したんだろ?結果はどうなったんだよ!?」




大河の話の続きをじっくり聞くつもりであったのだが、その中に出て来た「勝負」の言葉に思わず激反応してしまった薫。

その薫から、指をさされされた質問で、大河はドキッとした表情へと変わった。

電話がかかってきた以上、なんだかんだで吾郎から伝わるのだろうと思っていた事だけに、マジかよ……な感情がよぎったのだ。




「な、なんだよ……茂野さんから、聞かなかったのかよ……?」

「あいつは、大河に聞けって言ってたぞ……?一体、どんな勝負したんだよ?」

「…3球だけ……本気で投げてもらっただけだよ……」

「さ、3球だけ……!?で、で……!その結果は……!?」




興奮気味で、大河にそう聞いた薫。そのワクワクした顔を見て、大河はジト目に変わる。




「…教えない………」

「な……なんだよそれ〜〜!?本田も、それと全く同じ事をあたしに言ったんだぞ……!?」

「え……?茂野さん、も………」




思わず、大河の顔が引きつる……。と、その直後、数歩後ずさりした大河は薫にクルリと背を向け、足早にドアへと向かった。




「とにかく、俺からも教えない……!いつかまた、姉貴から茂野さんに聞いてくれよ!」




そう言うと、ドアを開けっ放しにしたまま薫の部屋から出ていってしまった大河。その様子に、呆気に取られたようになった薫であったが、すぐに大声での文句が叫ばれる。




「ふ、2人して、なんなんだよ……!?めちゃくちゃ気になるじゃんかぁ――っ!!」




その叫び声から数秒後……ドアから僅かに顔を出した大河からの答えが返された。




「そうだよ、姉貴……!それを聞く為に、また茂野さんに電話すりゃいいじゃん!」

「そ、そんな事……できるわけないだろっ――!」




大河へと向かって、ベット上にあったクッションを投げつけた薫。抜群のコントロールで空中を飛んだクッションであったが、ニッと笑う大河の顔に当たる前にドアがしっかり閉じられてしまった。

最後の最後で見させられた子憎たらしい笑顔が目に焼き付いてしまった薫が、ここで本日最大級の声量での怒鳴り声を上げる事となる……。




「なんなんだよ、もうぅ〜〜!!すっごく気になるってば〜〜!!」




その夜…………

自分1人で考えても、決して答えが出るはずのない勝負の結果への予想と、やはりそれを吾郎に電話で聞いてみようか……?な、ドキドキを感じてしまう考えとを繰り返し、眠れぬ夜を過ごす事になってしまう薫なのであった……。

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