〜初めて見る後輩〜 全38P

「まあ……何かあれば、お前から電話してこいよ。直接は出れなくても、後で俺からかけ直すからよ?」

「え………?」




思いがけない吾郎の言葉に、薫の目が驚きで丸くなる。




「い、いいのかよ……?そこに、あたしから電話しても……?」

「あのなぁ……別に、ここは刑務所とかじゃないんだぜ?電話がかかってきたからって、何も言われたりしねぇよ」




呆れ顔で答えた吾郎が、ふと時計に目をやる。そこに示されている時間を見て、吾郎は慌てて言葉を続けた。




「おっと、やべぇ……!マジに風呂に入りそこなっちまうから、切るぞ?」

「あ……ご、ごめん、長引かせちゃって……!」

「そんじゃあ……またな、清水」

「うん……!またな、本田……」




切れた電話……その後、待ち受け画面に戻った自分の携帯を、薫はそのまましばらく見つめてしまう。

そして、数秒後………




「やあぁぁ〜〜!!どうしよう〜〜電話していいって言われちゃったよぉ〜!?本田の携帯番号、登録しなくっちゃ〜〜!!」




と、叫びながら、1人ベットの上で転がりながら大喜びをしている薫。

その後もしばらく、携帯を抱き締めるようにして転がり続けていた薫に、突然声がかけられた。




「良かったじゃん、姉貴。ちゃんと携帯の側にいた甲斐があったみたいでさ?」




それに驚き、瞬時に上半身を起こした薫は、声が聞こえた自室のドアの方へと振り返る。




「た、大河……!!」

「つくづく、いい弟を持ったと思うだろ?しっかり、感謝してもらいたいもんだよな〜?」




ニッと意地悪く笑いながら、立てた親指で自分を差した大河。この後すぐに返ってくると予想した、薫の照れによる怒声を待った。

だが………




「あ、あのさ……本当に、ありがとうな……大河……?あんたのおかげで、久しぶりにあいつと話せて楽しかったよ」




大河へと返ってきたのは怒声でも文句でもなく、僅かに頬を染めた笑顔の薫からのその言葉であった。

それに驚いた大河の目が最大限に見開いたが、すぐにその目は呆れたジト目へと変わる。




「まさかとは思うけど……高2にもなって、マジに電話で話せた位で喜んでるわけじゃないよねぇ……?ちゃんと、何か行動も起こしたのかよ……?」

「は……?こ、行動って……なんだよ……?」

「今の電話で、今度会う約束でもしたとかさぁ……」

「そっ……そんなの、無理、無理っ……!!『野球』で毎日忙しいあいつが、そんな約束するわけないだろ?あり得ないってぇ〜」




もろ照れからだと分かる、妙なカラ笑いをしながらの薫の言葉……。それを聞いた大河からは、ため息をつきながらの声が返される。

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