〜初めて見る後輩〜 全38P

「俺がお前に話したかったのは、そっちじゃなくてよ……。あいつが『野球』を始めたきっかけが知りたくて、電話したんだよ」

「え……?大河が『野球』を始めたきっかけ……?」

「ああ」




なんで、そんな事を……?と、思いながら、自分の過去の記憶を辿った薫が答え始める。




「えと……確か……あたしがドルフィンズで『野球』やってる頃に、まだチビだったあいつに聞かれたんだよね……。『野球』って、そんなに楽しいのか……?ってさ……」

「へぇ……あいつから、そう聞いてきたのかよ……?」

「うん、そう。それでさ……あたしは『野球』が楽しくてしょうがなかった頃だから、もちろん楽しい!って答えたんだよね。そしたら……小4になった途端、あいつってば横浜リトルの入団テストを受けにいって、しっかり受かっちゃってさぁ〜!あの時は、ビックリしちゃったよ!」

「そか……それで、あいつも『野球』を……」




薫からの話を聞き、吾郎には思わずの微笑みが浮かぶ。そして、そんな電話の向こうの様子などわかるはずもない薫からは、ふざけ気味な声が続けられた。




「なんで、その時ドルフィンズに入らなかったんだよって思わないか?姉のあたしが、あんなに頑張ってたチームなのにさ〜」

「ま……それはしゃあねぇだろ……?そん時、横浜リトルに入ってたから、今のあいつの実力になれたのかもしれねぇし……」

「は……?何、それ……どういう意味だよ……!」

「あ……?まあ、そこはあんま深く考えんなよ、って……それよかよぉ、お前の弟はかなりいいセンスしてたからな。海堂(うち)に入ったら、もっと強くなると思うぜ?」

「え……?た、大河のやつ、海堂に入学するって決めたのか……?」

「ああ、俺達にはそう言ってたけどな」

「そっ……かあぁぁ〜良かったぁ〜〜!早く決めてほしかったのに、あいつってばこんな時期まではっきりしなくてさ〜」

「今から楽しみにしてるぜ、あいつと一緒に『野球』できるのをさ……?清水から、そう伝えてといてくれよな」

「うん、わかった……」




大河との『野球』を楽しみにしてる……吾郎からそう言ってもらえた事を、自分の事のように嬉しく思えた薫に微笑みが浮かぶ。

そんな薫へと、今までとは少々違う声質での吾郎からの話が続けられた。




「それからよぉ……その……お前にも、ありがとうな……?『野球』の楽しさをあいつに伝えてくれてさ……」

「え……そ、そんな……あ、あたしは、別に何もしてないよ……?」

「してなくねぇよ。清水が『野球』を楽しんでっから、大河っていう野球少年が一人増えたんじゃねぇか」




照れが含まれた、吾郎の声……。薫にはそう聞こえた。

らしくない声なのかもしれない……。だが、自分へと言ってくれたその言葉は、確かに吾郎のものらしくて……薫の心の中が嬉しさで埋まり始める。

そんな薫へと、吾郎の言葉が続けられた。




「だから、お前には礼が言いたかったんだよな。俺、さ……昔っから、こんな風に『野球』が広まるのが、すげぇ好きだからよ……」




ドキンッ……… 



吾郎の言葉に含まれていた「好き」の部分。それが妙に心に響いて聞こえてしまった薫は、一人勝手に赤面してしまう。

そんな自分に呆れながら、片手で熱くなった顔をあおぎながらの薫が、裏返り気味の声を上げた。




「も、もう〜〜なんだよ、やだなぁ〜〜!何も、お礼なんか言う事ないってば!大体、あたしに『野球』を教えてくれたのは本田なんだからさぁ〜」




照れ笑いをしながら話す薫の姿が、はっきりと目に浮かんだ気がした吾郎……。

薫のその様子と言ってくれた事に対し、ニッと笑った吾郎が言葉を返す。




「そんじゃあな、清水。これから風呂に入んなきゃいけねぇから、これで切るぜ?俺や弟は相変わらずの『野球』だけどよ、お前はソフトを目一杯楽しめよな?」

「え………」



(…本田……今度は、いつ……この声が聞けるんだろう………)




吾郎からの電話終結を表す言葉に、思わず沸いたその疑問……。

今はまだ公式戦への出場はしていない吾郎だが、これから先は海堂の投手として忙しい日々を送るに違いない……。

そんな吾郎とは、次にいつ会う事が出来るのかも全くわからないのだ……。

そう思ってしまった薫は、今後、高校球児として最も大切な時期を過ごす事になる吾郎へと、かけておくべき言葉を慌てて伝えようとし始める。




「ま、待てよ……!本田……!!」

「あ……?なんだよ?」

「あ、あの……とにかく、体に気をつけてな……!あんまり、無茶ばっかすんなよ?」

「んだよ、母親みてぇな言い方だな……?最近は、ちゃんと大人しくしてっから大丈夫だよ」

「い、いいだろ、どんな言い方だって……!これから色んな大会が控えてるのに、また大きなケガとかしたら大変だろ……?本田のお母さんもだろうけど……あたしだって、いつも心配してんだからな……?」




薫の言葉に、吾郎の顔がほころぶ……。




「わかったよ……。俺も海堂(ここ)での『野球』を無茶しねぇで頑張るから、お前も聖秀でのソフト頑張れよ?」

「あ、あとさ……!今かけてくれてるこの電話って、本田の携帯からなのか?」

「ああ、まあな。つっても、あんま使ってねぇから、今も電池切れになっちまってて充電しながら話してんだけどな」

「あ……そ、そうなんだ………」



(たまには、メールでも……と、思ったけど……こりゃ、とても無理そうだな………)




自分で勝手に出した結論で、少々落胆してしまった薫……。そこに吾郎からの言葉がかかる。

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