〜初めて見る後輩〜 全38P

「なっ……なんだよ、清水……!?お前の声でかすぎだぞっ!耳が痛ぇじゃんかよっ……!!」




間違いなく、薫よりも更に大きい声でそう言った吾郎……。

そのあまりの大声に、一度は耳から携帯を離したものの、薫はそれをすぐに戻して話を始める。




「ご、ごめん……!で、でも……ちょっと、驚いちゃってさぁ………」

「ったく……なんで、そんなにデカい声で驚く必要があんだよ……!って……まあ、いっか……。うちで会った以来だもんなぁ、元気にしてたかよ?」

「う、うん、元気だよ!てか……あたしの事より、本田こそ足の具合はどうなんだよ?」

「ああ、こんなもん、もうすっかり治っちまったぜ。と……そういや、母さんに聞いたけどよ……お前、あの後もう一回うちに来てくれたんだってな?」

「行きましたよ。あたしに「また来い」って言った人は、何故かもういなかったけどな?」




吾郎とゆっくり会える事を楽しみに訪ねたあの日の事を思い出し、苦笑を浮かべた薫。

そしてこの時点で、既に突然の電話から受けた動揺は消え、いつも通りの自然な会話が出来ている薫に、吾郎からの声が返る。




「いや、悪りぃ、悪りぃ。お前が来てくれた後で、急に寮に戻る事になっちまってよぉ」

「その事も、ちゃんと本田のお母さんが教えてくれたよ。それに、あたしへの珍しい〜プレゼントも、ちゃんと受け取ったしな」

「あ……?ああ〜〜あれか……!まあ、必要な時に使えよな」

「うん」




うん、とは答えたものの……内心では、これから先どんなに大切な自転車のタイヤがパンクしたって、あれは使わないよ……と思った薫がクスリと笑う。

その後、あのチューブが紙袋から出て来た時の事を思い返し、笑い出しそうになった薫に吾郎の声がかけられた。




「あのなぁ、清水……。今日、お前の弟が海堂(ここ)に来たぜ?」

「え……え、えぇ〜〜た、大河が……!?あ、あいつ『野球』してきたって言ってたけど……か、海堂まで行って来てだったのかよ……!?」

「へぇ……そんな驚くって事は、お前、本当に何も聞いてなかったんだな……?つか……俺も清水の弟に会った事なかったからよぉ、いきなり来たあいつに、そう自己紹介されて驚いちまったけどさ」

「え……?あ、そっか……本田と大河って会った事ないもんな……。あ、じゃあ……大河が、あたしの携帯番号を本田に教えたのか?」

「ああ。俺との勝負の結果を、姉貴に伝えろってさ?この番号、渡されたんだよな」

「え……勝、負……って………」




そこは薫に伝えぬつもりが、つい口走ってしまった「勝負」の言葉。それに焦った吾郎が、すぐに訂正を試みる。




「あ、やっ……!違う!それは……」

「えええぇ〜〜〜っ!?ウソだろ、あいつ……!?マジに、本田と勝負しに行ったのかよっ……!?」




吾郎の耳が、キーンと鳴ったほどの薫の大声……。それに対して、再び吾郎の怒声が飛ばされる。




「て、てめ……ざけんなよ、清水っ……!?お前の大声のせいで、耳が取れそうだってのっ……!!」

「あ……ご、ごめん、ごめん……!そ、それで……あいつと勝負した結果は、どうなったんだよ?」




自分がうっかりしてしまったとは言え、薫に聞かれたくない事を質問された吾郎がジト目となって声を返す。




「…教えない………」

「はあ……?な、なんだよ、それ……?さっき、結果を教えてくれる為に電話をくれたって言ってたよな……?すっごい気になるんだけど……!」

「それは、後で弟に聞けばいいだろ……!別に、俺が答えなくてもいいじゃんか!」

「え……そりゃあ、そうだけどさ……」



(な、何……?本田が答えたくないって事は、まさか……あいつが打ったって事かよ……?)




自分でそう予想した結果に、驚きを隠せなかった薫……。引きつり笑顔となった薫に、落ち着きを戻した吾郎の声がかかる。

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