〜小さな2人の約束〜 全9P
「いいか、吾郎……?いつかまた会えて『野球』をする時があっても、薫ちゃんは女の子なんだから優しく教えてやるんだぞ?」
「うん……!ねえ、おとさん?今は寿くんしかいないけど、きっと薫ちゃんみたいに一緒に『野球』してくれる友達もいっぱいできるよね?ぼく、たぁ〜くさんの友達と『野球』がしたいんだ!」
小さい体を目一杯伸ばし、両腕を大きく横に広げた吾郎の姿は、これから先に増える友達の数への希望を表しているように見える。
するとその直後、綺麗に澄んだ瞳を持つ目の前の息子が、もう少し成長し、大勢の友達と『野球』を楽しむ姿が茂治の脳裏にはっきりと映し出されたのであった……。
そして……今はまだ幼い息子の目線に近づく為に、茂治はその体の前でしゃがみこむ。
「吾郎が友達を大切にすれば……必ず友達も増えるし、お前の事も大切に思ってくれるはずだよ?そうすれば、きっと大好きな『野球』もずっと一緒に続けてゆけるはずだ。だから吾郎、まずはお前が友達を大切に考える事を忘れるなよ?」
「友達を大切に……考える、の……??」
きょとんとしたものとなった、吾郎の表情。
それを見て、5才の息子相手に少々難しい言い方をしてしまったと気付いた茂治が、もう一度言葉を変えて伝え始める。
「友達と仲良くなれるように、吾郎が頑張れって事だよ?大切な友達をお前が守ってやれるように、強くもなるんだぞ?」
息子の大好きなフレーズである「頑張る」と「強い」を使っての説明は、吾郎にもしっかりと伝わったようだ。
それに何度も大きく頷いた吾郎から、元気のいい返事がされた。
「うん……!わかった!!ぼく頑張って強くなって、友達いっぱい守るよ!!」
少々ポイントのずれたその返事を愛らしく感じ、思わず笑い声を上げた茂治。
そんな父親の様子に目を丸くした吾郎の前で、立ち上がった茂治からは大きな手が差し出された。
「さあ、俺達もそろそろ帰るか?今夜は吾郎の大好きなカレーだぞ?」
「カレー!?やったあぁぁ〜!!いっぱいお替わりしてもいい!?」
喜びいっぱいの表情で、茂治の手ではなく腕をつかんでぶらさがるようにした吾郎。
その吾郎を、そのまま片腕でひょいっと持ち上げた茂治が得意気に笑う。
そして小さな体を振り回すように腕を動かすと、途端に吾郎からははしゃぎ声が上がり始めるのであった……。
父親にとって……まだまだ簡単に宙を浮かす事の出来る小さな吾郎………。
良く似た笑顔の父子の姿が、園内からゆっくりと遠ざかっていくのだった………。
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