〜小さな2人の約束〜 全9P
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「薫と息子さんとで遊んでいただけたようで、ありがとうございました!今日は家内が風邪で寝込んでるんで、1人で子供達を連れてきたんですが……。いや、どうにもまだ小さな息子から目が離せなかったもので……」
茂治に向かって、頭を下げながらそう言った薫の父親。その間も、チョロチョロと自分の周りを動き回る大河を気にしながらの言葉に対して、茂治からもすぐに声が返される。
「いえ、とんでもない。うちの子も1人だったので、娘さんに遊んでもらえて助かりました」
そう言うと、茂治は自分のすぐ隣りに立つ吾郎の頭の上へと大きな手を乗せた。
「なあ、吾郎?薫ちゃんと遊べて楽しかっただろ?」
「うん、楽しかったよ!」
「あたしも楽しかったよ、パパ!ねえ、また吾郎くんと一緒に遊んでもいい?」
「おとさん、ぼくもまた薫ちゃんと遊びたいな!」
無邪気に問いかけてきた子供達の期待に溢れた瞳を見て、父親同士は困ったような表情での視線を合わせる。
そして、少しの間を置いてから返された茂治の言葉は……。
「そうだな?またいつか会えたら……一緒に遊ぼう」
2人の頭をなでながらそう言ってくれた茂治の笑顔を見て、吾郎と薫も笑顔を向けあうのだった……。
その後………
あたり一面が真っ赤な夕陽に染まり始めている中で、父親が薫と大河の手を引き駐車場へと向かってゆく姿を見送った茂治と吾郎。
3人の後ろ姿がかなり遠ざかった頃に、茂治からの声がかけられる。
「今日はボールやグローブが無くても楽しく遊べたみたいだな、吾郎?たまにはこういうのもいいんじゃないか?」
「うん。でも、次は薫ちゃんと一緒に『野球』やる約束したんだよ?だから今度は、道具を使ってもいいでしょ?」
息子の答えに、茂治の目が丸くなる。
どんなに遊具で楽しく遊んでいようと、ボールを握っていなかろうと、やはりこの息子は『野球』からは決して離れないのだと感じた茂治には、困惑を含めた苦笑が浮かんでしまう。
「…そうか……。あの子と『野球』をやる約束をしたのか……」
「うん!ぼくが教えるなら、一緒にやるって言ってくれたもん!!」
とても嬉しそうな笑顔で、そう言った吾郎。それを見て、茂治の表情も通常の笑顔へと変わる。
そして……もう見えなくなりそうな距離となっている薫の横顔へと視線を送り、やはり笑顔で父親へと何かを語っているその姿を見てから、茂治は吾郎へと視線を戻した。
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