〜初めて見る後輩〜 全38P

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バタァ―――ンッ……!!



「大河―――っ!!」




思い切り開かれたドアの音と共に、大河の部屋に入ってきた笑顔の薫。

そして、それに驚き肩を跳ね上げた大河の声が返された。




「なっ……なんだよっ、姉貴……!?ノック位しろよっ……!!」




机に向かい、一枚の便箋を手にしていた大河。慌てて振り返ったその様子を見て、薫はすぐさま机の上を覗き込む。




「おっ……!な〜んだよぉ〜またラブレター貰ってきたのかぁ?なんで、お前みたいのがそんなにモテるのかねぇ?」




机の上にあった、どう見ても女子から受け取ったとしか思えない綺麗な色の封筒を見ながらの薫の言葉……。

実は、今までも偶然にこうした現場を押さえてきた事があった薫からの言葉に、大河からの文句が飛ばされる。




「るっさいなぁ〜!!これは、そんなんじゃねぇってばっ!!」




と、言いながら……慌てて引き出しの中へと手紙を隠した大河。それが終わると、椅子の向きを変え薫へと向き合う。




「…てか……なんだよ、そのハイテンションはさぁ……?昨日とは別人じゃんか……?」




少し赤みを帯び始めてしまった顔を、無理矢理平常のものに戻した大河。そんな大河へと、ニコニコ笑顔を向けた薫からの返事がされる。




「実はさ、本田に会ってきたんだよねぇ〜」




そう言いながら、大河のベットに腰掛けた薫。その答えを聞き、正面の椅子に座っている大河の目が丸くなる。




「え……もう、会ってきたのかよ?はぁ〜ん……それで、茂野さんは元気だったってわけだ」

「えっ……!なんで、本田が元気だったってわかるんだよ!?」




どうやら、本気で驚いているらしい薫の様子。それを見た大河の瞳は、ジト目に変わった。




(その顔見りゃ、わかるに決まってんじゃん……アホらしい……)




とは思ったものの、それを口には出さず呆れた笑顔となった大河の言葉が続く。




「…で……?ケガは大したことなかったって事?」

「いや……ケガは本当に酷いみたいなんだ……。聞いてた通りの全治3ヶ月で、無理に動けば投手としてはマズイらしくて……。でも……あいつ自身、そうはなりたくないから、ちゃんと無理しないで治すって言ってたからさ……」




吾郎との会話で、心からの安心が出来た事を思い出し、嬉しそうに微笑んだ薫……。そんな姉の様子を見てクスリと笑った大河であったが、その表情がすぐに真顔へと変わる。




「へえ……本当に全治3ヶ月の大ケガなんだ……。それって、いつケガしたのかは聞いた?」

「あ……それなら、6月だって言ってたよ……?学校内の試合で、やっちゃったらしくて……」




と、ここまでを話した薫がハッとした表情となり、大河へと慌てた声での言葉を続ける。




「そうそう……!今回の本田のケガの事って、甲子園前だとかで内緒にしとかなきゃいけないらしいんだ!だから、お前も誰にも話すなよな!」

「え……?ああ、それはわかったけど……。6月のケガじゃ、茂野さんの1軍デビュー戦はしばらく見送りって事か……」

「え……な、何、それ……?どういう意味だよ……?」




大河からの言葉に、少し表情が曇った薫。思っている事を非常にわかりやすく表情に出す姉に、大河からは小さなため息付きでの答えが返される。




「忘れてんのかよ……?普通なら、茂野さん達2年生の1軍デビュー戦は9月から始まる秋季県大会だろ?それに間に合わせようとしたら、それこそ無理しなきゃだろうから……そんなのは、既に諦めてるって事なんだろね」




冷静な声での大河からの説明……。それを聞いた薫には、驚きの表情が浮かぶ。

3年間という、絶対の期間がある高校球児の公式戦デビュー。

それはほとんどの2年生達にとって、3年生引退後の今秋がそれにあたるはずなのだ。

高校球児にとって、かなり大切なデビュー戦……。あの海堂の中でもレギュラーとしての実力を持っているはずの吾郎が、それに出場する事が出来ないとは……。

昨日、桃子と出会ってからずっと吾郎の事を考えていた……。ケガの状況、それに伴う精神状態等々……。

今の吾郎がどうなってしまっているかばかりを考えていた自分は、大河に言われた通り、秋季大会の事などすっかり忘れていたのだった……。

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