〜初めて見る後輩〜 全38P

「こら、こらぁ〜〜!?そんないきなり食べんなよ……!それは、お前1人だけのってわけじゃないんだからなっ!?」

「あ……?なんだよ、お前も食べるか?」




薫の意思が全く伝わっていない事を表す答えを返しながら、ポイッと一袋を投げた吾郎。

自分に向かって投げられたその袋を受け止めた薫から、再度、吾郎への注意が叫ばれる。




「あ、あたしが食べたいわけじゃないってば!?真吾くん達とみんなで食べろって事だよっ……!!」

「別にいいじゃんかよ……?こんなにあんだから、お前も食えばいいだろ」




既に1個を完食した吾郎からのその言葉に、薫の目は思い切りジト目へと変わった。




「あのなぁ……まるで自分の物のように言うなよな……?それ、あたしが持ってきたんですけどぉ……?」

「は……?んなの、わかってるっての」




そう答えながら、再び紙袋の中に手を入れている吾郎。それを見た薫に、大呆れの気持ちからの苦笑が浮かぶ。

それとともに、いつも通りのこの吾郎らしさに、心からの安堵を感じた薫からの言葉がかけられる。




「まぁ……いっか……。とにかく、本田が元気そうで良かったよ。じゃ、あたしはこれで帰るからさ?」




思い描いていた不安がすっかり消えた薫の心の中は、幸せ気分でいっぱいになっていた。

普段と変わらぬ吾郎と会えたおかげで、身も心も軽い気分となれた薫は地下室からの出口へと向かう為にクルリと身を翻す。するとその背後から、吾郎の声がかけられた。




「おい、清水。また来いよな?」




ドキッ………!



思いがけない吾郎からの言葉に、薫の胸が弾ける。そして当然、見開いてしまった瞳のまま、薫はゆっくりと振り返った。




「…え………?」

「なんせ、この通りの体だからよぉ〜毎日、暇で暇でしょうがねぇんだよなぁ……。それでも、まだしばらくはここにいるしかねぇから、たまには話し相手になりに来いよ、なっ?」




2個目のシュークリームの袋を開けながらの吾郎の語りに、自分が胸を鳴らしてしまった理由になりそうな要素は皆無な事に気付けた薫。

そんな薫は、自分に対しての苦笑を浮かべながらの怒鳴り声を返した。




「おい、こら……!もう一回言っとくけど、それ絶対に一人で食べつくしたりするなよな……!?」

「わ、わかってるって言ってんだろっ……!これ食ったら、ちゃんと母さんに渡すっての……!」

「ならいいけど……一応、上に行ったら本田のお母さんに伝えておくからな?」

「お前なぁ……そんなに、俺が信用できねぇのかよ……?」




仏頂面でそう言った吾郎を、クスッと笑った薫。久し振りの……だが、昔から変わらぬこんなやりとりに、薫の心は癒される。




「じゃな、本田……そのうちに、また来てやるからさ」




吾郎からの「また来いよ」の言葉への返事を言い終え、手を振り出口へと向かい始めた薫には、さらに幸せ気分が増していた。

どんな理由でもいい……吾郎に必要とされる事が嬉しかったのだ……。




「またな、清水……!これ、美味かったぜ〜」




出口手前の薫へと、2個目のシュークリームを手にしている吾郎が、空いている方の手を振る。

その声に再び振り返った薫は、この後すぐに吾郎の口に運ばれるのであろうシュークリームを思い、苦笑気味で手を振り返すのだった……。



その後………

上の階に向かう階段を上り始めると、用意したお茶を手にした桃子とはちあわせた薫……。

先程、吾郎から咄嗟に受け取ってしまったシュークリームを渡しながら、桃子へと挨拶をした薫は笑顔で茂野家を後にするのであった……。

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