〜初めて見る後輩〜 全38P

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その後2ヶ月ほどが過ぎ、季節は初夏から真夏へと変わる頃になっていた。


だが……未だに海堂への入学は決めていない大河。

その理由は、スカウトされた当日の薫との会話をきっかけに、自分の『野球』への想いを含めたこれからの進路を深く考え始めてしまった大河が、まだはっきりとその答えを見い出せないままでいたからであった……。

そんなある日のこと………。




コンッコンッ……!


清水家の2階廊下に響いたのは、大河が薫の部屋をノックした音。

その音の直後に、大河の声が響く。




「姉貴〜!ちょっと、辞書貸してほしいんだけど〜」




今まで自室で試験勉強中だった大河であったが、聞き慣れた足音が薫の部屋内へと消えて行った事で席を立ち、訪ねた隣室。

だがノックだけでなく声掛けもしたというのに、薫からは何の返答も無かった……。




(あれ……さっき、帰ってきたよな………?)




決して聞き間違えとは思えなかった先程の足音により、大河は即、薫の部屋内を確認する気になる。




「姉貴、いるんだろ……?入るぜ?」




カチャンッ………



念の為……ゆっくりと開けたドア……。すると、大河が思った通り部屋の中に薫はいたのだが………。




「あ、姉貴……?」




薫の様子を見て、思わず驚き顔になった大河。

帰ってきた制服姿のままベットに座り込んでいる薫が、真っ青な顔で俯いたまま少しも動かずにいるのだ。

しかも、ドアを開けて呼び掛けた今の自分の声にも、全く反応がないままだ……。




「あ、姉貴っ……!おい、何かあったのかよっ?姉貴ってば……!」




とても普通には見えないその様子に、さすがに慌てた表情となった大河が掛け声とともに薫の肩をゆする。

それにより、ゆっくりと顔を上げた薫が、目の前の大河を見つめた。




「…大……河………」

「ど、どうしたんだよ、そんな死にそうな顔してさぁ……なんか、あったのかよ?」




とりあえす薫が反応した事で、少しだけはホッと出来た大河。

だが、そんな大河の質問により、また薫の顔は下を向いてしまった……が……それでもどうにか答えは返ってきた。




「…本田が……右足に、大ケガをしたって………」

「ほ、本田……じゃ、なかった……茂野さんがケガを……?って……姉貴は、どこでそれを知ったんだよ?」

「さっき……偶然、本田のお母さんに会ってさ……。あいつが試合中にケガをして、今は退院後で家で療養してるって聞いたんだ……」

「ケガって……どの程度の………?」

「全治3ヶ月……。軸足だから……無理すれば、ピッチャーとしては再起不能だって………」

「さ……再、起……不能………?」




思わず繰り返してしまったその言葉に、大河の表情がこわばる………。




「あいつ……前に右肩をダメにして『野球』を失いかけた事があるって言っただろ……?それなのに、またこんな事になっちゃって……今、どんな気持ちでいるんだろう……と、思ってさ………」




自分で言った言葉に、戻り始めていた顔色がまた青ざめだした薫。それを見た大河からの言葉がかけられる。

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