〜初めて見る後輩〜 全38P

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「清水くん……!ぜひ、我が海堂学園野球部の特待生として、我が校に入学してもらえないだろうか?君の意思が固まったり、もし何か質問したい事などがあれば、すぐに連絡を頼むよ」




これは……横浜シニアでの試合終了後、ロッカールームまで訪ねてきた海堂学園のスカウトの男性からの言葉。

今日、彼がこの球場に足を運んだ目的は、チームの1番打者として本日も4打席3安打2盗塁の結果を残している、清水 大河への野球部特待生としての海堂入学初打診だ。

男性は入学後の海堂での待遇を簡単に説明した後、上記の言葉と一緒に大河へと名刺を差し出したのだった。




「…はあ………」




受け取った名刺を見てはいるものの、表情はクールなままなんら変化の無い大河。

どうやら質問をしてくる気配もない大河へと、終始、好感度を損なわぬこと間違い無しの爽やかな笑顔を絶やさずにいた男性から、再度声が掛けられる。




「それじゃあ……この事は、親御さんともよく相談してもらえるかな?君からのいい連絡を待ってるよ」




大河の様子から、初会は引き際を良くしておいた方が良さそうだと判断したスカウトマンは、そう言いながら廊下を戻り始めた。

そして……その姿が廊下の角を曲がると同時に、ロッカールームのドア付近でこの話を立ち聞きしていたチームメンバー3人が一斉に大河へと駆け寄る。




「すっげぇじゃん、清水……!!今のって、海堂からのスカウトかよ!?」

「こんな早い時期から声が掛かるなんて、やっぱお前ってすごいんだなぁ」

「ほんとだよ……。海堂からじゃなくたって、スカウト自体が今年はお前だけかもしれないよなぁ……」

「な、何を言ってんだよ……!俺達だって、まだこれから声がかかるかもしんないじゃんか!」

「でもよ〜それが無かったら、マジに受験しないとだもんなぁ……。俺、自信ないよ……」




今後の自分達への心配が募り、大河への祝いの気持ちがどこかへゆきかけているメンバー達。

しばらくは、お互いを励ます為に「まだ諦めないぞ!」と、熱く語り合っているその輪に囲まれていたものの、その間も大河の表情に大きな変化は見られなかった。

そんな大河へと、ようやく話題を元に戻す気になった1人が、自分達の輪の中心にいる大河に声をかける。




「もちろん清水は、他から声がかかっても海堂に行くんだろ?あそこは段違いのレベルだもんな」




それに対し、大河から返された言葉は……。




「別に……海堂だけが、野球部のある高校じゃないっしょ?超メジャー過ぎるってのも、かえって面倒な気もするしさぁ……」

「「「…え………?」」」




その返答に、揃っての一文字を発し、呆気に取られたような表情となったメンバー達。

そんなメンバー達の体をすり抜け、まだ着替えが済んでいない大河はロッカールームへと向かい始める。




「まぁ……気になる部分が全く無いわけじゃないんで……もうしばらく、考えてみっから」




そう言いながら、一度はメンバー達へと振り返った大河がロッカールーム内に消えていった。

その姿を目で追いながら、メンバーそれぞれが呟きを放つ。




「海堂の名前にも、動じないとはなぁ……」

「ああ……さすがは清水だよ……」

「あいつが海堂蹴るんなら、俺に譲ってくんないかなぁ……」




出来る事ならば……と、野球推薦枠での高校入学を強く希望している3人は、大河への羨ましさに心の底からのため息を同時についてしまうのだった………。

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