〜小さな2人の約束〜 全9P
「じゃあ、これからあたしと一緒に遊ぼうよ!」
「…え………?」
「向こうに、すっごい大きな滑り台があるんだよ?吾郎くん一緒に行こ!」
この大きな遊具の中の一部が滑り台になっている事を知っている薫は、それがある方向を指差してから吾郎の手を取った。
その言葉だけでなく、突然、手を握られた事にも驚いた吾郎が、本日何度目かの慌てたような声を出す。
「ちょ、ちょっと待ってよ……!あ、あれ……えっと、名前は……??」
つい先ほど、女の子が父親に呼ばれていた名前が思い出せない。そんな吾郎に、滑り台の方向を差していた指を自分自身へと向けた薫が答える。
「あたしは、薫!清水 薫って言うんだよ?」
「薫………?」
確認の意味も含め、思わず名前を復唱した吾郎。だがその結果、薫に対し呼び捨てとなってしまっている事に、茂治からの注意がなされる。
「こら、吾郎!薫ちゃんだろ?呼び捨てになんかするんじゃないぞ?」
「は、はぁ〜い………」
父親へと、素直な返事をした吾郎を見ながら、薫からの言葉がかけられる。
「あたしもここで遊んでなきゃいけないから、吾郎くん一緒に遊んでよ?いいでしょ?」
「う、うん……いいけど………」
「やったあ〜!じゃあ滑り台で遊んでから、一緒にトレーニングしよ!それならやってもいい?」
茂治の顔を覗き込むようにして質問をした薫。思わず微笑んだ茂治が、大きく頷く。
「ありがとう、薫ちゃん。吾郎と一緒にトレーニングもしてくれるのかい?」
「うん!さっきも、ちょっとだけ一緒にやってたんだよ?」
「はあ〜?あんなすぐに落っこってたら、トレーニングになってないよ」
「じゃあ、次はもっと頑張るもん!だから、また一緒にやる!」
自分の手をつかんだままの薫からの気合いのこもった言葉に、また目が丸くなった吾郎。
すると突然、移動が待ちきれなくなった薫によりその手が引かれ始めた。
「早く滑り台に行こうよ!すっごく大きいから、楽しいよ!」
大人の体には狭いと感じる遊具の中を、駆け抜けるように遠ざかり始めた2人。そのスピードに、とても追い付けるとは思えなかった茂治が大きめの声をかけた。
「2人で仲良く遊べよ!おとさんもすぐに行くから、気を付けてな〜!」
「「は〜〜い!!」」
2人ともが大きな声で答えながら振り向いた事で、まだまだ小さな息子と女の子の手が離れる。
その手を振ってから、薫と一緒に遊具で遊びながら滑り台へと向かっている笑顔の息子を見て、茂治の顏にも安堵の笑顔が浮ぶのだった……。
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