〜癒し系なアイツ?〜 全9P
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その日の夕刻……茂野家では………。
「たっだいまあ〜!母さん、なんか食うもんねぇかな?すっげえ腹減っちまった!」
リビングへと入ってくるなりの吾郎の質問に、それとは全く関係ない答えが桃子から返される。
「吾郎!学校から帰るなりすぐに出掛けちゃって聞けなかったけど、ホワイトデーのお返しはどうしたの?ちゃんとした?」
「は?ああ〜そういや昨日ここに置いといて、もう忘れてた。はいよ、これ」
リビング内の棚の上に置いてあったコンビニの袋を桃子へと渡した吾郎。
急に目の前に突き出された事で、とにかくはそれを受け取りながらの桃子が驚きで目を丸くする。
「え……な、何?もしかして母さんにも用意してくれたの?わああ〜やっぱり嬉しいものよねぇ〜ありがとう吾郎〜!」
「それなに〜?ぼくにもみせて〜!!」
桃子の手の中の綺麗な缶を見て、すぐに飛んできた真吾が桃子の足元へとしがみつく。
真吾へと渡された透明なビニールに入ったリボン付きの缶は、大事そうに抱えられながら、おもちゃ達が床に並ぶ方へと運ばれていった。
「吾郎にしては、ずい分と素敵なのを選んだじゃない?清水さんにも同じ物を返したの?」
ご機嫌な笑顔で質問してきた桃子へと、目を丸くした吾郎が答える。
「は……?あれを選んでくれたのが清水だぜ?俺にはわかんねぇから、あいつにコンビニに付き合ってもらってさ」
「え……やだ、あんたってば私に返す物を選んでもらったの?じゃあ、肝心の清水さんには何を返したのよ?」
「返してねぇよ。あいつも要らないって言ってたしな?」
「………………。」
桃子の目が点になる。そして吾郎はその横をすり抜けながら、キッチンへと向かい始めた。
「とにかくなんか食うもんないのかよ?あいつらとムキんなってバッティングしまくったら、腹減っち……まっ……!?」
突然、背中からグイッと服をつかまれた吾郎が、変に上がった声と一緒に振り返る。
そこにあった自分を睨み付けている桃子の様子を見て、一瞬で焦り顔となった吾郎……。
「な……なんだよ……?何を怒った顔してんだ……??」
「あんたって子はああぁ〜!?母さんの話をちゃんと聞いてないから、こういう事になるのよっ!?」
「は、はあ……?話ってなんの事だよ?ここんとこ言ってた今日のホワイトデーの事なら、ちゃんと返せって聞いてたから、さっき渡したんだろが!」
「違うわよ!!母さんが返しなさいって言ってたのは、清水さんにって事よ!?それをあんたがいつだって上の空で聞いてるか、話し始めるとすぐにどこかに行っちゃったりするから、こんな事になっちゃったんじゃないの〜!?」
「へ……?し、清水に返せって事だったのかよ……?それならそうと……」
「言ってましたっ!!あんたがちゃんと聞いてなかっただけでしょっ!?」
そこまで怒鳴った桃子に、背後からカサカサといった音が聞こえる。
その音のせいで、急にハッとしたように真吾へと振り向いた桃子は、今までとはまた違うカラーの怒鳴り声を上げた。
「やあぁ〜!?し、真吾!!それは全部食べちゃダメよっ!!」
どうやら器用に缶の蓋を開けてしまった真吾が、既に何個かのクッキーを口にしている様子。
夕食前の時間という事もあって、あと一つだけよ?とクッキーを手渡しながらの桃子が、それまで真吾が抱えていた缶を、上手く隠しながら自分の手に取った。
その光景を見ながら、吾郎の方はそお〜っとリビングを抜け出そうと試みる。
だが、あと少しでドアを出られるところで、ばっちり桃子に見つかった。
「ご、吾郎!ちょっと待ちなさいよ!ねえ、今からでもお返ししてきたらどう?」
「あ、いや……あいつにも返すってのは伝えといたからよ?また今度、ちゃんと渡す事にすっからさ」
「え……それ本当なの……?」
「ああ、清水ならそのうち気付くだろうしな……?それよか、早いとこ飯にしてくれよなあ?部屋で待ってるからよ」
何かつまみ食いをしたかったところを我慢した吾郎が、2階へと上がってゆく。
その階段の音を聞きながら、ため息を一つついた桃子だった……。
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