〜癒し系なアイツ?〜 全9P

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外を歩き始めた2人に、またしばらくの沈黙の時間が続く。

だが、お互いに気まずさなどは少しも感じていなかった。

常日頃のケンカ越しの会話をしながらでも、夢中になって『野球』などの話をする時でも、今のようにたとえ無言であろうとも……。

いつだって、この見慣れた街並みの中を並んで歩く時、それがどんな状況でも2人にとってはお互いに気を使う事もなく、ごく自然な事と思えて歩けてきたからだ。

今日は、このままお互いの家に向かう為の分かれ道に差し掛かりそうだな……と、薫が思った途端、吾郎からの声がかかる。




「なあ……?バレンタインデーは、くれって言ってもらうもんじゃねぇのに、ホワイトデーは、返せって言われたら返さないといけないもんなのか?」

「は、はあ……?何だよそれ?普通は返せって言われたらとかじゃないと思うけど……」




吾郎のホワイトデーへのずれた認識に驚いた薫。興味の無い事への常識の無さは、さすがのレベルのようだ。




「へ……そうなのか……?じゃあホワイトデーってのは、どうすんのが正解なんだよ?」

「正解とまで言われても、あたしだってそこまではよくわかんないけどさ……?バレンタインに何かをもらったら、必ずホワイトデーにお返しする人が多いみたいだけど……。本田の場合は返さなくてもいいんじゃないか?なんか似合わないし」

「なんだそりゃ?似合うとかどうとかいう事なのかよ?」




僅かにムッとした表情となった吾郎を見ながら薫が笑う。




「あははっ……!確かにそうだよな?じゃあさ、あたしが思うのはこれ!バレンタインのチョコだって、あげたいと思う人にあげればいいんだから、ホワイトデーも同じだろ?お前が、自然に返したいって思ったら返せばいいんじゃないか?」

「自然に返したい、か……。んじゃ、それ以外で返さなきゃなんねぇのは、母さんみたいに催促された場合って事だな?」




ニッと笑いながら、今買ったばかりの袋を持ち上げた吾郎。それを見た薫は苦笑する。




「催促されたなんて言わないで、お母さんには日頃の感謝を込めてちゃんと返せよなあ……?お前の世話をしてくれてるなんて、偉大すぎる人だとあたしは思うぞ?」

「んだとぉ……?俺の世話した事もねぇくせに、よく言うぜ!」




その言葉にカチンッときた薫。足を止め、吾郎の顔の目の前に指を突きつける。




「あのなあぁ〜?そりゃ、あたしはあんたの家の中での世話はした事ないけど、学校ではどれほど面倒みてやったと思ってんだよっ!?今のでまた思い出したけど、この前あんたに貸した英和辞典だってまだ返ってきてないんだぞ!?」

「は……?ああ〜そっか、いっけね!間違って家に持って帰っちまったまま、机に放り投げてあるんだった」

「な、何それえぇ〜!?人の辞典を何だと思ってんだよ!?明日は絶対に学校に持ってこいよなっ!?」

「悪りぃ、悪りぃ!そうだよな?明日は持ってかねぇと、卒業式になっちまうもんなあ〜?」




チクッと痛んだ薫の胸。

明後日は卒業式……3年間通った中学校や仲間、先生達との別れの時が近づいてきていた……。

小学校を卒業する時は、同じ公立の中学に進む仲間が多かった事もあり、だいぶ心強かったのを覚えている。

だが、今度の進学先は高校……。ほとんどの仲間と、別々の学校に通う事になる……。

もちろん……目の前の吾郎ともだ……。

昔はランドセルを背に並んで歩いたこの見慣れた街に、4年ぶりに戻ってきた吾郎……。

けれど、吾郎はまたここから離れていってしまうのだ……。

そんな事を考えてしまった為に急に寂しさが溢れ出し、思わず涙さえ出そうになってしまった薫が、それを消す為ギュッと力強く拳を握り締める。




「じゃ、じゃな本田!絶対に明日は辞典持ってこいよ?忘れたら許さないからな!!」

「あ……?ああ、またな清水!」




あと少し先だった分かれ道を前にして、急に走り出した薫へと挨拶を返した吾郎。

角を曲がってゆくまでの薫の後ろ姿を、その場に立ち止まったまま見送る吾郎だった………。

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