〜癒し系なアイツ?〜 全9P

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店内へと入り、その中の一か所に設けられたホワイトデー関連の商品が置かれているコーナーの前に立った2人。

可愛らしいラッピングがされた品々が並ぶ中で、薫は桃子へのお返しとしてどれが最適かと真剣に探し始める。

その結果……小さい真吾も喜んで口にしそうな、一口サイズのチョコクッキーを選んだ薫。

個装されている丸いクッキーが、後々も何かを入れて使えそうなセンスのいい缶に入っている物だった。

明日はバッティングセンターに行くと言っている吾郎の財布事情もちゃんと聞いた上での選択に、何の文句も言う事なく素直に吾郎はその商品を薫の手から受け取る。




「サンキュー清水!すぐに買ってくっからな!」




レジへと向かった吾郎を見送った後で、薫はもう一度ホワイトデーコーナーへと目を向けた。

可愛い雑貨を見るような気持ちで商品を見始めた薫に、キャンディーが入ったキャラのイラスト付きマグカップが目に止まる。

思わずそれを手にして眺めていた薫の元へ、会計をすませた吾郎が戻ってきた。




「何、見てんだ?」

「え……?ああ、これ可愛いだろ?このキャラ好きなんだよねえ〜」

「はあ……?その気の抜けたようなクマがかよ……?」

「なんだよ、その言い方……。癒し系なんだから、この感じがいいんだよ……!」

「癒し系〜??そんなもんがお前に必要なのか?」




どう言う意味だよ、それ?と返したいところではあったが、これ以上の会話は怒鳴り合いに発展する予想がつき、店内ではやめよう……と、思えた薫が商品を大事そうに棚に戻す。

その行動を見ていた吾郎からは、思いがけない言葉がかけられた。




「もしかして……お前もホワイトデーのお返しってやつ、欲しいのか?」

「え………?」




ドキンッと鳴った薫の胸。

もちろん欲しいに決まっている……しかも、ついさっきまでは返してもらえると思ってしまっていたのだ……。

だが心の中では「欲しい」と思っている事が、どうにもスッと言葉に変わって出てきてはくれない。




「は、ははっ……!あ、あたしは別にいいよ!!そんなつもりであんたにチョコあげたわけじゃないし!!」




見事に心の中とは裏腹の、けれど嘘ではない言葉を返した薫。

そう……あのチョコは、決してお返しをもらう為に吾郎に渡したわけではない……。

少しでも……ほんの少しでも自分の想いが伝わる事を祈って渡した、告白も手紙も添えないチョコだったのだ……。

それを思い返せた薫は、やっぱり自分へのお返しは無くてもいい。と、見事にさっぱり思えてしまう。




「さ、帰ろう本田。そろそろ店内からも出ないとマズイだろ?」




入店する時とは逆に、さっさと店外に向かい始める薫の背中を見つめた吾郎。

チラッとだけ薫が置いた商品に目を向けた吾郎であったが、それに手を伸ばす事もなく、薫に続いて店外へと出るのだった。

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