〜癒し系なアイツ?〜 全9P

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「お〜い!帰るぞ、清水!」




たった今、帰りのHRが終わったばかりの教室に、再び吾郎の声が響き渡った。

担任でさえまだ教卓のあたりにいる中でのその声に、薫は恥ずかしさから慌てて鞄をつかんで廊下へと向かう。

もう少し人が少なくなってからの登場であれば「一緒に帰るとは言ってない」を、もう一度位は言うつもりだったのだが、今のこのクラス中の注目を浴びた状況では、そんな事をする余裕など全く持てなかった。

教室のドアを出た薫は、吾郎を見る事もせずにその横を素通りし、廊下を足早に歩き始める。

その様子に少しは目を丸くした吾郎ではあったが、ニッと口元を上げてから薫の後へと続くのだった。





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「で……一体、どこに寄るつもりなんだよ?卒業式直前に怒られそうな所は嫌だからな」




学校の門を出てから、住宅街の中を並んで歩く2人。

ちょっとした意地悪心で、薫はここまでの間を無言で歩いて来た。

だが、どうやらそれを全く感じていないような上に、吾郎の方こそが無言を続けている状況に、ため息混じりで話しかけたその言葉。

それに対して、やはり薫の意地悪などまるで気付いていなかったらしい、あっけらか〜んとした声が返される。




「大したとこじゃないって言ったろ?コンビニだよ、コンビニ!そこで見てもらいてぇ物があっからさ」

「コンビニ〜??…って……一応は、学校帰りには寄っちゃいけないとこじゃんかよ」

「だから、お前の教室では言わないでおいただろ?時間はかからねぇから大丈夫だよ」

「なんの根拠があって、大丈夫って言うんだかなぁ……。ほんと勝手なヤツ……」

「ま、今日のせいで卒業出来なくなっちまったら、またお前と一緒に3年生やるしかねぇよな?」

「は……!?な、何バカ言ってんだよ……!」




わははは!と、笑いながらの吾郎の横で「一緒に」の部分のせいだけで顔が熱くなり始めている薫。

そんな自分自身に悔しさを感じている薫に、吾郎からの言葉は続く。




「な〜んてな?そんなの冗談じゃねぇよなあ〜?お互いに受験勉強頑張ったしな」

「あ……あんたの受験勉強の場合、頑張ったのは寿くんやあたしや小森や……とにかく周りの人間達の方じゃなかったか?そこんとこ忘れるなよな」

「お前らに勉強とか教えてもらった事は感謝してっけどよ〜実際に受験したのはこの俺だぜ?やっぱ自分の努力の結果ってやつだろ」

「はいはい……勝手にそう思ってればいいんじゃないの?」




いつも通りのふざけた口調による会話のおかげで、薫の調子はすぐに元通りとなる。

その後も笑いながらの吾郎の受験での苦労話をしているうちに、目的であるコンビニの前へと到着した。




「おし!そんじゃ中に入って、早いとこどれがいいか選んでもらってもいいか?」

「は……?そう言えば、コンビニって何を見るんだよ?しかも、選ぶって何をさ……??」

「ホワイトデーのお返しってやつだよ。明日だろ?」

「へっ……!?ホ、ホワイトデーって……本田、知ってたのかよ!?」




裏返ってしまったような驚きの声と一緒に、動き始めてしまった薫の鼓動。

4年ぶりに三船に帰ってきた吾郎に渡したバレンタインのチョコ……。

まさかそれにお返しが貰えるなどとは、少しも思っていなかった。

お返しする本人に品物を選ばせるのは、いかにも気が利かない吾郎らしいが、何かを返そうと思ってくれた事がもの凄く嬉しい。

自分にとってとてつもない宝物が増えそうな突然の出来事に、薫の期待は嫌でも膨らみ始める。

そんな最高の幸せ気分にほんの一瞬で浸り始めた薫へと、ジト目の吾郎の言葉が返された。




「俺だって、ホワイトデー位は知ってるに決まってんだろ……?ただ、今年は初めて母さんにお返ししろ!って言われてよお……。まあ、今までずっとチョコ貰ってきたし、返してやるか〜と思ってさ」




吾郎の言葉を聞き終わり、薫に3秒の間が空いた。

ほわわ〜んと、なり始めていた頭の中で、今の言葉を理解する為に必要だったその時間を使ってからの声を薫が返す。




「え……ちょ、ちょっと待って……。もしかして、今から選ぶのって本田のお母さんへのお返しって事……?」

「ああ、悪りぃけどお前に選んでもらいたいんだよな。母さんにやる物なんか俺にはちっともわかんねぇからさ?」

「あ……ははは……そう……お母さんの、か……」




さっさと店内へと入ってゆく吾郎の背中を見ながら、薫は肩をガックリと落とす。

一度は期待させられてしまったおかげで、あたしへのは無いんだよね……?と、言う思いが、どうにも捨てきれないままの薫が吾郎へと続くのだった……。

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