〜小さな2人の約束〜 全9P

「大きくなって野球選手になるまで、ずっと頑張るって決めたんだ!」




瞳を輝かせた男の子からの言葉を聞いて、今度は女の子の目が丸くなる。

なぜか?その男の子から目が離せないようになってしまった女の子に、遊具の外からの呼び声がかかった。




「薫〜!どこにいるんだ?ちゃんと中にいるのかぁ〜?」




間違いなく、自分を呼ぶ父親の声。それに反応した薫は、すぐさま大きな声で返事をした。




「は〜い!!ここで遊んでるよぉ〜!!」

「そうか〜パパは大河から目が離せないから、ここだけで遊んでるんだぞ?わかったかぁ〜?」

「は〜い!!わかったぁ〜!!」




薫が殊更大きな声で返事をすると、外にいる父親が息子の名前を呼びながら遠ざかってゆく感じが伝わってきた。

すると、そのすぐ後………




「おい、吾郎〜!いつまで見えない所で遊んでるんだ?大丈夫か?」




遊具の中へと入ってきた父親の声で、吾郎の肩がビクッと上がる。

すぐに父親の方へと振り返った吾郎は、慌てて笑顔での答えを返した。




「おとさん、ぼくなら大丈夫だよ……!ここで遊んでたんだ!」

「そうか。ずい分と姿が見えないと思って入って来たけど……その子と一緒に遊んでたのかい?」




吾郎のすぐ横に立っている、薫を見つめた茂治。その優しい眼差しを見て、笑顔になった薫が元気な声を出す。




「こんにちは!」

「こんにちは。きちんと挨拶が出来て偉いなあ?吾郎と遊んでくれて、ありがとう」




その茂治の言い方に、顔を赤くした吾郎の慌てた声が上げられる。




「べ、別に遊んでもらってたわけじゃないよ……!ぼくがここでトレーニングしてたら、この子が……」




そこまで言うと、あっ……と言う表情となり言葉が止まった吾郎。それを聞き、茂治の方は小さくため息をつきながらの声を返す。




「ここまで遊びに来て、またトレーニングしてたのか……?せっかく少し遠くまで来たんだから、今日は普通に遊べって言っただろ?」




昼食後、自宅からは少し遠出と言えるこのレジャー施設に吾郎を連れて来た茂治。

最近は、こうした場所に連れてくる事も出来ずにいたし、近所の公園などとは違い大きな遊具が沢山あるここなら、きっと吾郎も喜ぶだろうと思っていた。

そして今日は、いつも『野球』から離れようとしない吾郎に、たまには普通に遊べと言い聞かせていたのだ。



だがやはり……この息子はどうにも『野球』からは離れられないらしい……。

ここへ到着するなり、大きな遊具を見つけて嬉しそうに走り込んでいったまではよかったが、まさかその中でトレーニングに励んでいるとは……。



思わず苦笑となった茂治。自分と同じく『野球』が大好きな吾郎。それは嬉しい事には違いないのだが……。



あまりにも『野球』ばかりに熱中している吾郎は、友達と普通に遊ぶ事さえしないでいる時が多いと桃子から聞いていた。

それは父親として心配すべき事だと感じ、たまには大勢の子供達が楽しく遊ぶ場所へ連れて行こうと思ってここに来てみたのだ。

しかし結果は………。

そんな事を考え、内心で困ったものだと感じ始めていた茂治の前で、薫からの明るい声が響く。

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