〜溶かしたいもの〜 全14P

「…れ……清水……?」

「よお、お帰り本田」

「お帰り……って、なぁ……?お前、用事があるからってさっさと帰ったんじゃ……」

「これ……あんたにやるから……!」




本田の家の近くで、帰りを待っていたあたし……。

差し出したラッピング無しの白い箱を受け取った本田が、その蓋を開ける。

と……箱の中身を見て、本田の目が大きく丸くなった。

そして、その表情をいつもの憎たらしい笑顔にしてから、本田は指でつまんだ星型のチョコをパクッと口に放り込む。




「やっぱ、溶けてないのも美味いじゃん?で……このチョコ、ちゃんと毒味もしてあんだろうなぁ?」




ウソ……!?覚えてくれてたんだ……!の思いで、つい、ほころびそうになった表情を引き締めてからのあたしが答える。




「そんなもん、してあるわけないだろ?ちなみに……今回のは特別に下剤入りだかんな?」

「なっ……お、おいっ清水っ!?今のそれマジかよ!?」

「自分の体で確かめろよ。丈夫が自慢なんだろ……?そんじゃ、またなぁ〜!」




その後も、あたしに向かって怒鳴り続けてるあいつを残し、笑いながら走り始めたあたし……。

溶けてないチョコを食べさせてやる価値なんか、ほんとはまだないはずのあいつだけど、今年のを食べて少しはあいつの心の中の≪恋愛を司る場所の扉≫は溶け出すんだろうか……?




「まだまだ、無理そうだよなぁ……?ほ〜んと、昔と何にも変わらない『野球バカ』だし!!」





もうすぐ、春がくる………。

全寮制の海堂の野球部に入るあいつは、また三船からはいなくなる………。

でも、もう嫌いになろうとはしてやんないからな……?

あんたの扉が溶けるまで、ずっと待つって決めたから……今日のチョコはその証………。

もし叶うなら……いつの日か溶けた扉の向こうに、あたしの姿があるよう願いを込めて作ったチョコ………。

それをしっかり食べちゃったあんたのこれからを、ずっと、ずっと見てるからな………!!



超鈍感男の≪恋愛を司る場所の扉≫が溶ける日………。

たとえそれが、どんなに遠い未来でも………。

あたしは……待ちたい………待っていたい………。



end


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******************

あとがき

はい。まんま、バレンタインデーの2人でした(笑)
突然、リトルの頃が書きたくなってしまった事と、季節はバレンタインだった事とで生まれたこの作品です。
薫ちゃん目線で書いてみようと進めていたら、ちょっと?せつない方向にいってしまって……。

そりゃあそうですよね?まさに片想いの真っ最中な時期なわけだし……突然、吾郎がいなくなる時期ですし……。
でもきっと小4のこの時、薫ちゃんからのチョコは渡されていて、未来の2人に結び付いた一つのきっかけのはず!!
と、思い込んでる私の妄想そのものなお話しでございました〜!

小4の女の子の語りとして意識したつもりでも、それがなんともかんともな結果に……(汗)
大人っぽすぎる?語りの数々は、私の力不足と、薫ちゃんはしっかりしてる子だから!!と思っていただく事とで、お許しくださいませ(泣)

この度も、長くて拙い文章に最後までお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。

悠 真那

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