〜溶かしたいもの〜 全14P
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「はい、本田!ハッピーバレンタイン!」
背中に隠しながら戻ってきたその箱を、立ったまま両手に乗せ笑顔と一緒に本田へと差し出す。
仁見さんほどは上手じゃないけれど、あたしなりには頑張ったつもりのラッピング。
水色と透き通った紙を二枚重ねて包み、大きめの黄色いリボンを付けた箱。
それを見た本田は、口に入れようとしていたお菓子を指につまんだままの姿勢で一瞬だけ動きが止まった。
「は、はあぁ〜!?バ、バレンタインって……お前がくれんのかよ!?」
「別にいいだろ?言っとくけど、あたしのも一応は手作りだかんな」
「て、手作りぃ……?清水がかよぉ……」
大きく目を開いたままの本田は、あたしの箱に手を伸ばそうとしない。
その態度にカチンッときてしまったあたしは、ジト目になって文句を吐く。
「せっかく食べさせてやろうと思ったのに、要らないってんだな……?」
「い、要らねぇとは言ってないだろ!?ちゃんと、もらうっての!!」
受け取る……と、言うよりは片手でかっさらうようにしながら、あたしの手から箱を取った本田。
仁見さんと違って、目の前にいるあたしには少しは気を使うかと思ってたけど……。
バリッ!!
と、派手な音とともに、力作のラッピングは破かれた……。
それを見て、ガックリと肩を落としたあたしの事など気にもせず、その後も本田は箱を開ける事にだけ専念している。
そして蓋を開け、そこにあった星型に作られたチョコを見た本田が声を上げた。
「へぇ〜〜すげぇじゃん、清水!これ、美味そうには見えっけど……ちゃんと食えるんだよな……?」
「ほんと、あんたってムカツク………」
仁美さんのチョコは、そんな余計な疑いも持たずにすぐ口に放り込んだくせに……!
の、思いと、こうしてチョコを渡しても、やっぱり恋愛要素の欠片も感じさせないこいつの態度に再びジト目になったあたし。
もちろんこれも予想していた事の一つとは言え、腹が立たないわけじゃない。
すかさず本田の手から箱を取り上げたあたしは、そのままキッチンへと向かい始めた。
「え……お、おいっ……!見せておいて、今さら食わせないつもりかよ!?」
間違いなく、チョコ食べたさで慌てて追いかけてきてるに決まってる……。
そうとしか思えない本田に、あたしはなんの返答もしてやらず、ガスレンジに置いた小さいお鍋に牛乳を入れ、一番小さい弱火を点ける。
そこへ………
ザザアァ……!
「なっ……何やってんだよ、清水っ!?」
箱を傾け、中身のチョコを一気にお鍋に流し入れたあたしの行動に、本田の驚き声が上がった。
その本田をチロッと横目で睨んで答える。
「今のあんたには、溶かしたチョコ位が似合ってるよ。それに、これも美味しいから飲んでみろって」
お鍋の中でゆっくりと溶けてゆくチョコをかき混ぜながら、失敗作をこうやって溶かしてきた事を思い出す。
何度か失敗し、そのあまり美味しいとは思えないチョコをもったいないからと食べていたあたしに、ホットチョコレートにもしてみたら?と、お母さんが教えてくれた。
形や舌触りが悪かったあのチョコ達だって、こうすると美味しいと思って飲めたんだもの。
この成功したチョコで作れば、きっともっと美味しいはずだよな……?
そんな事を考えながらのあたしの隣りに立ったまま、なぜか本田は文句の一つも言わずにお鍋の中を覗き込んでいた。
星の形がすっかり無くなり、牛乳の白い色も全部綺麗なチョコレート色に変わるまで……ずっと無言のままでいた、あたし達だった……。
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