〜溶かしたいもの〜 全14P
「なあ、ほんとに清水は食わねぇのか?もう無くなっちまうぞ?」
「へっ!?何、もうそんなに食べたのかよ!?」
「そんなにったってよぉ……元々7、8個しか入ってなかったじゃんか?こんなの、下手すりゃ一気にだって食えたぜ?」
あたしに向けて、箱の中身を見せながらそう言った本田。
けど、その中身を見たあたしは苦笑する。
「あのなあ……もう最後の一個じゃん?ほんとに、それをあたしが食べちゃってもいいのかよ?」
「そりゃまぁ……これがどんな味だか、気にはなるよなぁ……」
食い意地の張ってるこいつが、ラスト一個をあたしにくれるわけなんかないじゃん?と、思って言ったその言葉。
その予想通りに、本田は長方形の形をした最後のチョコを手に取って自分の口元に運ぶ。
だよなぁ?そりゃ自分で食べるに決まってる……と、納得してそれを見ていたあたし。
カシッ……!
ところが……今までのように丸々一個を口の中に放り込むのだとばかり思った本田が、チョコを半分だけかじったのだ……。
「ほら、これで俺も全種類食べた事にはなったしな?だから、お前も食ってみろって!」
顔の目の前に突き出された、ほぼ正方形に変わったチョコレート……本田のかじった跡付き……。
それをさらに口元まで近づけられ、条件反射のようにあたしは口を開いた。
本田の指でポイッと投げ込まれたチョコレートは、とろけるように甘くて柔らかい……。
噛む事などしなくても、あたしが食べてしまった事への仁見さんへの罪悪感と一緒にゆっくりと溶けていった……。
「なっ!なっ!?すげぇ美味いだろ?」
そして……あたしとは違い、罪悪感など微塵も持たないヤツが、少しも曇りの無い笑顔を向ける。
きっとこいつは、自分が美味しいと思った物をあたしにもそう思ってもらいたいだけなんだな。
「うん、凄く美味しかった」
正直な感想を述べたあたしに、あいつは「だろ?」と、はっきり顔に書いてある得意気な笑顔を返した。
全くさぁ……1人の女子が、本田の為に一生懸命作ったチョコを、まるで自分が作ったもののように嬉しそうに振る舞ってどうすんだよ……!
ほんとこいつは恋愛に関しては、とことんガキ……いや、まだ赤ん坊のレベルだな?
こいつの心の中の≪恋愛を司る場所の扉≫は、確実に固まったままなのがあたしの中で確定した。
「ちょっと待ってろよな?」
そう言ってあたしは立ち上がり、ソファーに座ったまま今度はお菓子に手を付け始めていた本田を残して二階へと向かう。
湿布は貼ったけど、まださすがに痛みを感じる足をかばいながら、どうにか階段を上がって入った自室。
そして……ここ何日も眺め続けた箱を、手に取った………。
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