〜溶かしたいもの〜 全14P
「そういや、今日ってバレンタインなんだよな?……って事は、中身はきっとチョコかもな」
「へ……?」
隠すどころか、堂々と広げられた手提げ袋。
本田がそこから引っ張り出したのは、ピンク色のレース柄の紙で包まれている箱だった。
束ねた何本もの細いリボンを使って、丁寧に縛られているその箱……。
全てのリボンの先端がクルクルとカールしているのが、とっても可愛くて……思わず、わあ〜!と、声を上げそうになったその時……。
バリィッ!!
大きな音と一緒に、本田の手の中で起きた事であたしの目が点になる。
リボンを解くわけでもなく、無残に引きちぎられたピンクの紙……。
邪魔!とでも言わんばかりにそれをはがし続け、出てきた白い箱を開けた本田が嬉しそうな笑顔で語る。
「うわ、すげぇ〜!!やっぱ美味そうなチョコが入ってんじゃん〜!」
そう言いながら箱の中からチョコを一つ取り出した本田は、じっくり眺めるでもなくパクッと一口で食べてしまう。
その光景を呆然としたように見ていたあたしに、本田は箱を差し出した。
「お前も食うか?あいつの手作りだって言ってたけど、そこらへんで売ってんのよか美味いぜ」
「ば……バカ言うなよ!!あたしが食べたりしたら悪いだろ!?」
「へ……?なんでだよ?」
「な、なんでって……だって、それバレンタインのチョコだろ?渡される時に、仁見さんになんか言われなかったのかよ……?」
ずっと気になっていた事を、思わず聞いてしまったあたし……。
こんな風に聞いちゃうあたしのやってる事だって、仁見さんに悪い事だよな……。
でも……でも………やっぱり気になるっ………!
「ああ、そうそう!あいつ「ひとみ」って言うんだってな?他のクラスのヤツの名前なんかほとんど覚えてねぇから、さっき聞いたんだよなぁ……。けど、もう忘れちまってたぜ」
へへっと、笑って頭を掻いてるこいつ……その答えを聞いて、またあたしは呆然とする。
あの、学年……ううん、下手すりゃ学校全体でも美人として噂の的の仁見さんを、こいつは知らなかったんだ………。
驚きで目を丸くしてるあたしに、本田は言葉を続けてきた。
「公園で話しかけられた時に、誰だかわかんなくってよ?俺が名前を聞いたらそれをあいつが答えて……今日のバレンタイン用に手作りしたから、食べてくれって渡されたんだよ」
「そ、それだけ……??」
「ああ、それだけ」
ケロッとした表情でそう答えた本田が、また1つチョコを口に入れてその美味しさに感動してる。
さっきのはナッツ入りで、今のはアーモンドが入っていたそうだ……。
そっかあぁ……同じ学年にいるのに自分を知ってもいなかった本田に、いくらあの仁見さんでも告白なんか出来なかったのかもなぁ……。
ほんと、こいつは恋愛にはとことん疎そう……。
あんな可愛い子に話しかけられて、バレンタインのチョコまで渡されたんだぞ……?
だったら、いくら相手の事を知らなくても、もう少し意識した態度をとれば向こうの出かたも違ったかもしれないのにさぁ……。
と、ここまで考えて、仁見さんと同じく、こいつにチョコを渡そうとしている自分に気付いた。
(そ、そうだった……あたしも渡すんだったっけ……?こいつは、あたしからのチョコはどんな風に受け取るんだろう……)
そんな考え事のせいで、鳴りだしてしまった自分の胸の音を気にし始めていたあたし……。
そこへまた、本田から誘いの声がかかる。
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