〜溶かしたいもの〜 全14P
「え、え……??う、うそだろ、本田……お前、ここからあたしを背負って帰るつもりかよ?」
「学校でもやった事あんだから、どうにかなんだろ?てか、早くしろよ!いい加減、周りから見られてっぞ!!」
本田の言葉を聞いて、ここで初めて周りの様子を見たあたし……。
公園の中にいる親子連れ、道路の向こう側の歩道から、他にも何人かの人がこちらを気にして見つめているのがわかった。
確かに、これは恥ずかしい……って、いやいや、でも待ってよ……!!
この注目されてる状況だってもちろん恥ずかしいけど、ここで本田に背負われるのなんかもっと恥ずかしいじゃんか!?
そう思ったあたしは、とりあえず少しでも人に見られないようにする為に、左足をかばいながら立ち上がった。
「ほ、本田……!そ、その……あ、ありがとう……で、でもさあ〜頼むから、背負うんじゃなくて肩貸してくんないか……?それで、どうにか歩けると思うからさ?」
「肩〜?本当にそれで歩けんのかよ?」
「う、うん!とにかくやってみる……!」
そんじゃあ……と言った感じで立ち上がった本田。それと同時に手の平をあたしに向けて見せた。
は……?もう立ち上がってるのに、なんで手を差し出されるんだ?と思いながらも、自分の手を重ねてみたあたし。
途端に目をまん丸くした本田が、すかさず手を引っ込めながら焦ったような声を上げる。
「なんでお前の手を乗っけるんだよ!?さっき渡したグローブをよこせって事だってのっ!!」
「へっ……?あ、ああ〜そっかこれか!」
うわわわ……何やってんだよ、あたし〜?と内心ではかなり焦りながら、再び熱くなってきた顔で本田へと誤魔化し笑いをして見せる。
そしたら……あ、あれ……?なんか、本田の顔も少し赤くなってるような……??
「いつまでもボケてんじゃねぇぞ!?そんなんだから、こんなケガしちまうんだよ!早いとこつかまれよ、ボケ清水!」
超バカにしたような目つきと口調で言われた事で、いつものようにカチンッときたあたし……。
言ってくれている実は優しい?はずの言葉が、ただの憎まれ口にしか聞こえなくなる。
これもまたいつもの事………。
思いきり本田の胸元に叩きつけるようにグローブを渡してから、しっかり肩にはつかまらせてもらう。
それから歩き始めて少しすると、本田の腕があたしの腰のあたりにまわされた。
「ひゃっ!?な、なんで腰なんか触るんだよ!?」
「ばっ……支えてやってんだよっ!!この方が歩きやすいだろうが!?」
い、言われてみれば確かに……さっきまでより、上半身が安定して歩きやすい気がする……。
「な、なるほどな……?でもさぁ……女子にいきなり触ったりすんなよな?なかには怒ったり嫌がったりする子だっているんだからさ」
「はぁ?なんだそりゃ?つーか、お前は女じゃねぇんだから大丈夫だろ?」
ゴツンッ……!!!
本田の肩にかけていた手を外し、頭のてっぺんへのきついゲンコツをお見舞いしたあたし。
さすがに痛かったのか、頭を押さえながらの本田が離れた。
「ってええぇ〜なっ!?何すんだよ、清水っ!?」
「お前が失礼な事を言うからだろ!?この先、あんたがセクハラ男って言われないように注意してやったのにさ!!」
「ああ〜そうかよ!そんじゃ今もセクハラ男になんねぇように、俺はこれで帰るかんな!?」
腕を組みながら、ジロリとあたしを睨んだ本田……。
ま、まずい、怒らせちゃったかな……?でも、今ここで置いてかれるのはキツイよぉ……。
思いっきりそれとわかりそうな愛想笑いを浮かべたあたしは、おまけも付けてからの言葉を返す。
「えっ……?うそうそっ!待ってよ本田く〜ん?今だけなら、どこ触ってもいいからさあ〜?」
「きっ……気色悪い言い方すんなっ!!ついでに、その変なウインクもいらねぇってのっ!?」
せっかくのおまけに対して、今、叫ばれた言葉へのゲンコツもしてやりたい気持ちを抑えながら、また本田の肩につかまり歩き出す。
本田に支えられてるおかげでどうにか歩けはしたものの、とても普段通りのスピードなど出せなかった。
そのせいで、大した距離ではないはずの家に到着するまで、もの凄く長くかかった時間……。
どうにも遠く感じた家までの道のりで、いつの間にか罵声の飛ばし合いから『野球』の話へ変わっていったあたし達。
ドルフィンズでの事、守備やバッティングの事、大会や練習中の想い出話……。
『野球』の話になると、途端に普段には無い色でこいつの瞳は輝き始める。
ほんと悔しいけど、それがあたしにはどうにも綺麗な色に見えてしまうんだ……。
家までの道のりの後半は、本田と2人で楽しく笑いながらのものになっていた……。
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