〜溶かしたいもの〜 全14P
「何をやってんだよ……?俺は「だるまさんが転んだ」なんかやるつもりねぇぞ?」
「…ち、違うよ……あ、足が………」
あまりにもバカバカしい事を言ってきたあいつだったけど、痛みのせいで突っ込みを入れる気にもなれなかったあたし……。
そしてつい、それに続けて真面目に返そうとしてしまった言葉の方は慌てて止めた。
(…ま、まずいよぉ……さっきは気が動転してたし必死だったせいか、平気で立ち上がれたけど……こ、これって……)
今さっき感じた痛みは、普通に歩いて帰れそうなものじゃないと思えたあたしの顔が引きつる。
そんなあたしの様子を見ながら、本田が質問を続けてきた。
「おい、足がどうかしたのかよ?やっぱ、ケガでもしちまってんのか?」
「へ、平気、平気!!なんでもないから、本田は公園に戻っていいよ。壁当てしてたんだろ?」
あたしなりに、精一杯の気を使ってこいつに返した引きつった笑顔での答え……。
なのに、こいつのした事は………。
コツンッ……!
「ぎっ…!?いっ……たああぁぁっ〜〜!?」
本田に軽く蹴られた、自分の左足の叫びとも言える大声を上げたあたし。
思わず左足首を抱えてしゃがみこんだあたしを見下ろしながら、本田が怒鳴りつけてくる。
「アホッ!!なんでそんなに痛ぇのに、さっきは何にも言わなかったんだよっ!?そんなんだったら、あのおっさんにどうにかしてもらった方がよかったじゃねぇかっ!?」
「し、仕方ないだろっ!?さっきまでは本当に痛くない気がしてたんだからさ!!も、もううぅ……なんでこんな事になるんだよおぉ……」
さすがに、今の自分が悲しくなってきた……。
今日はバレンタイン……。
目の前のこいつに、張り切ってチョコを渡す気にせっかくなれてたのに……。
放課後に先生に頼まれた仕事……。
そのおかげで遅くなったから寄ってみた公園……。
さらにそのおかげで、仁見さんと本田のあんな光景なんか見ちゃって……。
あげくには自転車にひかれそうになってのケガ〜?
神様ってば、いくらなんでもひどすぎるんじゃないかなぁ……。
涙目になり始めたあたし……。
それを未だに見下ろしている、本田からの声がまたかかる。
「俺がひとっ走りお前ん家まで行って、ここに迎えに来てもらうようにすっか?」
気遣って言ってくれたはずの本田の言葉は、さらに神様を恨ませる気持ちにさせてくれた……だって………。
「それが……今日に限って、お母さんが弟と出かけてるんだよ……。だから、鍵も持たされてるし……」
左足首を見つめたまま答えたあたしに、すぐには本田からの言葉は返ってこなかった。
でも、少ししたら……。
「おい、これ持てよ」
「へっ……?」
本田の手元の高さから、ポイッと投げ下ろされたボールが挟まっているグローブ。
それをあたしがキャッチすると、今度はあたしの背中に回って人のランドセルをむやみに開けた。
「ちょ、ちょっと……!何を勝手に……」
「しょうがねぇだろ!いいから、ここに入れさせろよな」
ガサガサッ!と、とても丁寧とは思えない音をたてながら、本田が何かをランドセルに押し込んでいる……。
まさかそれって、右手に持ったままだったあの手提げ袋……??
「ほら、自分で乗る位はできんだろ?どうにかやってみろよ」
「…は………??」
あたしの前にしゃがんで背中を見せている本田……え……こいつってば………。
「早く俺の背中に乗れっての!いつまでもここにいたって仕方ねぇだろ!?」
カアアアァァ………!
一気に真っ赤になったあたし……驚きでうろたえた声で、一応は質問をしてみる。
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