〜溶かしたいもの〜 全14P
キキキキイイィィ……!!!
目の前で、いきなり響いた自転車の急ブレーキの音とその姿……。
正面からぶつかりそうになったあたしは、今の自分が持てる全ての反射神経を使って、それをどうにかかわして倒れ込んだ。
「ばっ…バッカヤロ――!何やってんだよ、清水――っ!?」
公園の中から、これ以上ない位のあいつの叫び声が聞こえてきた……。
その声に振り向くと、倒れたままのあたしに向かって本田が走ってくるのが見える。
まずいっ……!しくじったあぁ〜!の思いで立ち上がったあたしに、慌てて自転車にスタンドをかけてから近付いてきた、見知らぬおじさんの声がかけられる。
「だ、大丈夫かい、君っ!?けど、いきなり飛び出したら危ないじゃないか……!!」
「す、すみません……!!あたしなら大丈夫です!!本当にすみませんでしたっ……!!」
おじさんに向かって、必死に頭を下げたあたし……。
だって、どう考えても今のはあたしが悪かったから……。
「おい清水っ!!大丈夫かよ!?」
「ほ、本田………」
公園から、走り出てきてくれた本田……。
気まずそうにしながら立っているあたしの姿をざっと見て、怒ったような表情で走り続けてきていた本田がホッとした顔になってから、少しだけ笑う。
「ったく……!いきなり驚かせんなよなぁ?けど……どうやら、ひどい事にはなってねぇみたいだな?」
こいつの目の前でやってしまったドジに対して、頭ごなしに怒鳴りつけられる事しか想像していなかったあたしは思わず目を丸くしてしまった。
そして、それと同時に胸が鳴り始める………。
(だ、だから……その優しい顔はやめろってば……!なんで……なんで、そんなのあたしに見せんだよ!?)
たまに……本当にたまにだけ見せる、本田のこの顔……。
それがたまらず、熱くなり始めてしまった顔を見られたくない一心で、その場で俯いたあたし……。
そこへまた、おじさんからの声がかかけられる。
「ちゃんと歩けるかい?ここから、君の家まで送ろうか?」
え……?と、俯きながら思ったあたし。
と、とんでもない、そんなのは断らないと……!
「い、いえ……!あたしなら、本当に大丈夫ですから!!」
「しかし……もし、途中でどこか痛くなったりしたら……」
「いいよ、おじさん。俺が、こいつん家まで送るから」
あたしの意思に味方してくれた、本田の声。
ただ1つ違っていたのは、本田が送ってくれるっていう言葉がくっついていた事……。
もちろんあたしは、そんなの少しも思っていなかったのに………。
「君が送ってあげてくれるのかい?2人は同級生なのかな?」
「ああ、こいつとは同じクラスだし、家も知ってるからさ。な、清水もそれでいいだろ?」
「え……あ……う、うん……!」
あたしが返事をしたのを見てしばらくすると、おじさんは「それじゃ、2人とも気を付けて」と、言いながら自転車にまたがり走り出した。
その後ろ姿を見届けていたあたしに、本田からの声がかかる。
「ほんと世話のかかるヤツだよなぁ……?面倒くせぇけど、送ってやっからさっさと行こうぜ」
「な……なんだよ、その言い方はさあ〜!?面倒なら、送るなんて言わなければよかっただろっ!第一、あたしなら1人で帰れるから本田はここにいていいよっ!!」
と、怒鳴りながら、これで今年のバレンタインは完全に終わったな……と思ったあたしの第一歩………。
ズキンッ……!!
前に出した左足首に痛みが走り、一歩だけ出したその姿勢のままであたしの動きはピタリと止まった。
そのまま少しも動かないあたしを見て、本田が不思議そうな表情で話しかけてくる。
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