〜溶かしたいもの〜 全14P

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作業を終えたあたしは、早足で職員室に行き、先生に挨拶をしてから一目散で学校を飛び出す。

まずは真っ先に自分の家に向かおうとしたけれど、ふと思いつき近所の公園に寄ってみる気持ちになった。

帰宅後だいぶ時間が経っているのに、あいつが大人しく自分の家の中にいるとは思えなかったからだ。

もし公園にいる事が先に確認できれば、チョコはそこに届ければいい。




「壁当てが出来るあの公園にはよく行ってるみたいだから、もしかしたらいるかもしれないもんな?」




全力投球はまだ禁止中のあいつだけど、ボールと遊ぶ時間を減らしたわけじゃない。

軽く投げる事はもうとっくに始めているあいつには、壁のある公園は貴重な場所になっていた。

そして息を切らして公園の入り口に立ったあたしの目に、ずっと奥の方にいる本田の姿が見事に映る。

思わず「ビンゴ……!!」と、心の中で明るく叫ぼうとした……のに………。




あいつは1人じゃなかった……。

本田の隣りに立っているのは、学年でも話題になっている他のクラスの美少女。

そして、左手にはいつものようにグローブをはめているあいつ。

でも……右手に握っているのはいつもの白球ではなくて……とても綺麗なブルーの小さい手提げ袋だった……。




男子から見て、女子への憧れの象徴のような容姿と性格を持つ仁見(ひとみ)さんが、何かを本田に話しかけている。

赤く染まった頬……同じ女から見ても可愛いと思えてしまうその顔や仕草……。

これだけ離れているのに、そんなとこまで見えてしまう自分の視力の良さが、今はただのありがた迷惑に感じた。

そして出来れば、その視力を活かして見たかった本田の表情の方は、あいつが背中を向けている為に見る事ができない。



早く……見つからないうちに、早くここから離れないと……!

頭の中ではそう思ってる……なのに……あたしの足は少しも動いてくれなくて……。




(…う、動いてよ足っ!!早く……!2人に気付かれないうちに、行かないと……!!)




必死にそう思っているあたしに気付く事なく、仁見さんがあたしのいるこことは別の反対側にある入り口へと向かって歩き出した。

その姿を見て少しだけ気が楽になったあたしは、つい、もう一度あいつの背中に視線を送ってしまったんだ。

絶対に見つかりたくない……でも、どうにかして、今のあいつがどんな表情をしているのかだけ見たい………。



そんなに都合よくいくわけもない願望のおかげで、まだこの場から離れられずにいるあたし。

少しだけ……ほんの少しだけでいいから、横顔だけでも見せろよ……!そんな願いを込めてあいつを見続ける………。



そしたら……ほら………。




「…れ……清水……?」




横顔まででよかったのに、見事にばっちり振り返ったあいつに見つかった……。




「よ……よおっ、本田っ!!壁当てやり過ぎんなよな!じゃなっ!!」




シュタッと勢いよく右手を上げながら、どうしようもない挨拶をして入り口から飛び出したあたし。

そうだよ!!さっきまで、ちっとも動かなかった足のくせに……!ここで、いきなりしっかり動いたりするから………。

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