〜溶かしたいもの〜 全14P

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そして……とうとう、来てしまった14日当日………。

下校後に控えている大イベントのせいで、ちっとも落ち着かなかった授業もどうにか終えた。

なのに……なのに、今……!あたしは担任の先生から頼まれた学級委員の仕事で、放課後の教室で居残り作業中だ。

やっているのは、明日の理科の授業で使う道具の準備。

特にはかりは低学年で使われた後だった為に、粘土で汚れてしまっているのを綺麗にしておくようにと言われた。




(なんだって、今日に限ってこんなの頼まれるんだよおぉ〜?学校にはチョコの持ち込み禁止だから、いったん家に帰ってから届けに行かなきゃなんないのにさぁ……)




はかりから外した受け皿の汚れを拭きながら、あたしはあいつの事を考え始めてしまう。




「大体さっ!この仕事は、あいつだって一緒にやる立場のくせに、先生に声かけられた時にはもう教室からいなくなってんだもんなぁ〜!ほんと頭にくるヤツ!!」




本当に、そう……教室にいるあいつには頭にきてばかり……。

忘れ物は多いし、授業には全く興味なし、宿題だってまともにやってこない……。

あたしがそれをフォローしてやったって、いっつも返ってくるのは憎まれ口ばっかりだしさ……!!

手抜きの掃除も、ガキっぽいいたずらも……他にも文句を言ってやりたいところだらけで、い〜っぱい!!

あいつは、教室ではいつだってそう……とても好きになんてなれる要素のかけらもないヤツ……。

…でも…………。



休み時間の校庭……。


体育の授業……。


運動会や球技大会、それに持久走……。


そんな時、元々運動神経がずば抜けていいあいつは、バカみたいに輝き始めるんだ……。




友達と楽しそうに走る……。


指示を飛ばして見事に仕切る……。


助け起こして一緒に笑う……。




なんだってそうなんだよ……?

体を動かしている時のあいつは、いつものあいつとは全くの別人になる……。

教室では全くダメダメなあのイメージが、あっという間に吹き飛んじゃうほどに見えるなんて……ほんと、ずるいよなぁ………。




そこへきて……さらにあたしは知ってしまったから………。

『野球』をやってる時のあいつを………。




白球を持ったあいつは……ヤバイ……。

冷静になって考えれば「バカ」としか言えないような事をやってるあいつが、めちゃくちゃ格好よく見えてしまう……。

あいつから感じる『野球』への『仲間』への想いの強さに、どうにも引き込まれて……そして惹かれる……。



そう『仲間』……。

『野球』をやってる時……あたしの事をあいつは『仲間』の1人として大事にしてくれる……。

あいつのおかげで大好きになれた『野球』……。

そして悔しいけど、あたしは『野球』だけじゃなくてあいつの事も………。




「…どうせ、あんたは『仲間』としか思ってないんだろうけどさ……?」




たまに見せてくれる最上級の笑顔や優しさに、あたしが勘違いさせられてるって気付いてるか……?

これは勘違いなんだって、何度も自分に言い聞かせてるって知ってるか……?

気付いてないよな?知らないよな?それがあんただもんな……?超が山ほどつく鈍感だって事は、とっくにわかってる………。



でも……でも、さ……?今日はバレンタイン……あたしがチョコを渡したら、あんたはどんな顔をするんだろう?

実は……告白なんかするつもりはないんだよね……。

あたしの気持ちになんか全く気付いてないあんたには、今年はチョコを渡すだけでいいと思ってる。

あたしからのチョコを、あんたがどう思って受け取るのかはすごく気になるけどさ……。

もしかしたら……少しは、あたしの気持ちに気付いてくれたりするのかな……?



そこまで考え続けたあたしは、ドキドキしてきてしまった鼓動の速さに合わせるように作業スピードをあげた。




(早く帰ろう……!早くあいつにチョコを渡しにいきたい……!!)




ずっと心のどこかで、あいつにバレンタインのチョコを渡す事を素直に受け止める気になれずにいたあたしの気持ちが「今」変わった……。

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