〜見たことのない君〜 全12P
「本田……日下部さんに、何を話したんだよ?」
「別に……絆創膏をもらえないか聞いただけだよ。お前だと、そんな事も言えそうにねぇからな」
そっぽを向きながらそう言った吾郎を見て、感謝の気持ちでいっぱいになった薫。
そしてその頬が徐々に染まり始める。
「あ、あの……!本田……!!」
薫からの呼びかけに、横を向いていた吾郎が振り向く……と………。
「あ……あの、さ……どうもありがとう、な……本田………」
ドキッ……!
伏し目がちに、はにかんだ笑顔を浮かべている薫に吾郎の胸が鳴った。
どうにも見慣れぬロングヘアー姿。そして頬を染めた薫からの笑顔は、吾郎の顔をも赤くし始めたのだ。
「…あ……や……べ、別に、礼を言われるほどの事じゃねぇだろ……!」
「そ、そんな事ないよ……!さっきから、椅子を運んでここに座らせてくれたり……おかげでご飯も食べれて助かったよ。本当に、ありがとうな」
先程よりは照れが消え、ニコリと笑ってそう言った薫。
その笑顔からも、軽くパンチされたかのような衝撃を感じた吾郎の足が思わず動く。
ガタンッ………!
突然立ち上がり、薫からは視線を外した吾郎は、くるりと背を向けてからの言葉を返した。
「き……気にすんなよ、そんくらいの事……!俺も、座って食いたかっただけだしな……!」
強めの口調でそう言いながら、心の中では変な動揺を感じ始めている吾郎。そして、それをどうにか振り払おうとし始める。
(な、なんだ俺……何で、清水相手にこんな風になってんだ……?いつもと見た目が違うってだけで、こんなもんなのかよぉ……?女って、こええぇ〜〜)
自分が考え付いた事で、吾郎は1人勝手に心の中でうろたえる……。
自分が感じている動揺は、あくまでも別人のようになっている薫の容姿のせいだと思っている吾郎。
ここまで容姿を変化する事が出来る女性への恐さで青ざめもしだし、その恐怖心?のおかげで先程までの顔の火照りは徐々に消えてゆく……。
そして………
その後ろでは、なぜかいつまでも背中を向けたままの吾郎を不思議に思っていた薫に、日下部が戻ってくる姿が見え始めるのだった……。
その後………
日下部が薫を支えながら移動し、隅のほうの椅子に座らせてからその両足に絆創膏を貼り始めた。
靴が当たり、血さえ滲んでいた部分の全てに絆創膏を貼り終えると、薫は一旦ぬいでいた靴をそっと履き直す。
「さあ、どうだい。これで立てるかな?」
「は、はい……。あ……大丈夫そうです。ありがとうございました」
恐る恐るではあったが、立ち上がってみるまでの間それほど痛みを感じる事のなかった薫は、ホッとした表情で日下部に礼を言った。
「なら、良かった。ホテルに戻ったら、ちゃんとした治療をするからね。それまでは、我慢出来そうかな?」
「はい。これなら歩けそうなので、大丈夫です」
そう答え、その場でゆっくりと輪を描くように歩いて見せた薫。
確かに、先ほどのような酷い痛みは感じていないらしいその様子に、当人の薫だけでなく吾郎にも安堵の表情が浮かぶのだった……。
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