〜見たことのない君〜 全12P 

「…一体……何をしてんだ、あいつ……?」




吾郎の理解不能な行動に、目を丸くしたままの薫は思わず独り言さえ呟いてしまう。

そして、今度は薫の方へと近づいて来た吾郎……。

すぐ目の前まで来た……と薫が思った途端、クルッと背中を向けた吾郎に、薫からの質問がされる。




「な、何……?」

「俺の肩につかまれよ。そしたら、少しは楽に歩けんだろ」

「へ……?な、なんで……?」

「いいから、早くしろよ……!肩、貸さねぇほうがいいってのか……!?」

「え……?あ、ちょ、ちょっと待って……!」




吾郎からの言葉の妙な威圧感に、訳もわからず、そっと立ち上がった薫。

言われた通りに肩につかまりながら、吾郎が進む方へとゆっくり歩き始める。

そのまま、吾郎が運んだ椅子へと向かった2人。到着するとすぐに、吾郎が2脚のうちの1脚に薫を座らせた。




「ちょ、ちょっと、本田……。どうして、ここに座るんだよ……?」

「飯を食う為に、決まってんだろ?ここにあんの、全部美味いもんばっかなんだぜ?」




そう答えながら、吾郎は既に目の前に並んでいる料理を2枚の皿に取り分けている。

そして、そのうちの1枚を薫の前に置き、もう1枚は隣りの空いている椅子の前に置いてから自分がそこへ座った。




「いっただっきまぁ〜す……!!」




周りが振り向く位の大きめの声での発声をし、料理を食べ始めた吾郎。そんな吾郎へと、恥ずかしさで頬を染めた薫が慌てた声をかける。




「ほ、本田ってば……!なんで、座って食べたりするんだよ……!?まずいってば……!」




薫が、かなり気まずい様子でそう言ったのも無理はない。新婦さえ立っている事の多い立食パーティーの中、座って食べているのはほんの数人のお年寄り達だけなのだ。

本日のゲストの中でも、ピカイチ若いであろう自分達。それが、しっかりと椅子に座り食べている事の恥ずかしさで、さらに顔が染まり出している薫へと吾郎が答える。




「足が痛いヤツが座って食べて、何が悪いんだよ?そういう時の為に、この椅子だって置いてあんだろうしな」

「え……そ、それはそうかもしんないけど……。で、でも、なんで本田まで座っちゃってんのさ……?」

「は……?だってよぉ、どっかの恥ずかしがり屋が1人で座ってるよか、俺も一緒の方がいいだろ?」

「え………」




思いがけない吾郎の気遣いに、小さく鳴った薫の胸……。

それとともに、大きく目を丸くした薫へと吾郎の言葉が続く。




「つ〜か、大体だなぁ〜?俺の方が、どう見たって立派なケガ人だぞ!片手で皿が持てねぇからこの方が食べやすいし、お前はそれに付き合ってるって事でいいじゃん」

「…本田………」

「ほら!んなのどうでもいいから、早く食えよ清水……!さっさと食わねぇと、帰る時間になっちまうぞ?」




と、言いながら、次々と口中に料理を詰め込んでゆく吾郎の豪快な食べっぷりは、薫の空腹感を強く刺激した。

そしてさらに、恥ずかしさも徐々に消し始めてくれたその食べ方のおかげで、薫は自分の前に置かれた料理へと目を向ける。




「いただきま〜す……!」




その声と一緒に料理に向かって丁寧に手を合わせたあと、皿の上の一品を口にした薫。すると、その目が途端に輝く。




「うわ……!何これ、すっごく美味しい〜!」 

「だろ?俺も、まだまだ食えるぜ〜!」




その後………

並んで座り、夢中になって料理を食べ続けたフォーマル姿の2人。

大人達には愛らしく感じるその姿を、多くの人が微笑ましく見つめ続けたのだった………。

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