〜呼び名〜 全3P
「な、なんだよ、寿……!」
「だって、吾郎くん……みんなが大河の事を「清水」って呼ぶのが気になってるって事でしょ……?それって、清水さんを連想させられるから?ほんと、恋愛って凄いんだねぇ……」
だあぁ……信じらんねぇっ……!
なんだって、こんな見事に言い当てんだよ、こいつは………!!の、思いと同時に顔が一気に熱くなる。
「そ……そんなんじゃねぇっての………!何を、勝手に………」
「すんませ――ん、佐藤先輩――!」
急に聞こえた大河の声に、慌てて振り向いた俺。いつの間にか、だいぶ近くまで走ってきていた大河が俺達のすぐ傍に着き足を止めた。
「あの……佐藤先輩のバットって、トップバランスですよね?申し訳ないんスけど、ちょっと使わしてもらってもいいスか……?」
「え、うん……構わないけど……。トップバランスのバットを……「清水」が使うの……?」
「え………?あ、いえ……俺じゃなくて、他のヤツなんスけど………」
寿からの久しぶりのその呼び名に、大河は驚いたような顔になってる。そして俺は……思いっきりジト目で寿を睨み付けてやった。
「寿いい……てめぇ、わざとやってんじゃねぇよ………!」
「たまにはいいでしょ。で、どう……?思い出した?」
その言葉が終わった途端、急に寿を羽交い絞めにし始めた俺を見て、大河のヤツが珍しいほどの驚き顔で止めに入る。
「ちょっ……何やってるんスか、茂野先輩……!?一体、今のどこに怒る必要があるって言うんスかっ……!?」
なぜこうなっているかを、大河(こいつ)にだけは絶対に知られたくない俺は、背中から抱えている寿を押し出すようにして走り出した。
まずは、ここから離れねぇとだ……!
「お、怒ってなんかねぇよ……!寿のアップに付き合って、俺ももうひとっ走りしてくっからさ……!バットなら、俺のもトップだから勝手に使っていいかんな〜〜」
「え………?」
どうやら何も気付かなかったらしい大河の様子にホッとした俺は、寿が余計な事を伝えないよう気を付けながら走り続けた。
「いいか、寿……!今の話は、ぜってええぇ〜に大河に言うんじゃねぇぞ……!?」
「わかってるよ……!さすがに、清水さんに報告されたくはないもんね?「清水」と聞く度に、君を思い出しちゃって困ってます……なんてさ?」
その後………
まるでじゃれ合うようにランニングをしながら、遠ざかってゆく2人の先輩を見て、苦笑を浮かべた大河が独り言を呟く……。
「あ〜あ……あんなふざけながら走ってて、大丈夫なのかね……?けど……茂野先輩は、海堂(ここ)でピッチャーやりながら、長打狙いのトップ使ってんのかよ……?さっすがだよなぁ………」
そう呟いた後、特待生達の元へと戻り始めた大河。その胸中は「俺も負けてらんねぇ」の思いでいっぱいになっているのだった……。
今日もまた、海堂厚木寮での『野球』漬けの一日が始まる………。
end
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あとがき
呼び名って、気になりますよね……?
吾郎じゃないけど、私もテレビからの呼び名や活字でさえ「本田」「清水」なんて、超〜〜気になっちゃうし(笑)
薫ちゃんとの恋愛初期の吾郎の耳に「清水」が聞こえるのは、きっとたまらないはず!な、思いで書いた文章ですが、もっともっと聞かせてやりたいなぁ〜(大笑)
悠 真那
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