〜見たことのない君〜 全12P
「なんで、足が痛いんだよ……?どっかで、転んだりでもしたのか?」
かなり痛そうなその様子に、自分の頭の痛む部分をさすりながらも薫の心配をした吾郎。
その声から、吾郎の自分への気遣いを感じた薫は、照れと申しわけ無さが混じった為の少し頬を染めた顔で、吾郎へと顔を上げ小さめの声で話し始める。
「靴ずれに、なっちゃったんだよ……。こんな靴なんて履いた事ないし、サイズも少し合ってなかったみたいでさ……」
「は……?靴ずれだぁ……?」
「うん……しかも両足………」
そう言って、ドレスの裾からスッと足を出して見せた薫。
今の話の通り、薫の両足のかかとには酷い靴ずれが出来ており、そこから血まで滲み出ているのだった……。
「うわ……ひでぇな……」
手足への傷など『野球』をしながら絶えず作ってきた自分だが、それでもさすがに痛々しく見えたその足に、吾郎の顔が引きつる。
「お前さぁ……ここに来た時から、ずっとウロウロ歩いてたよな?なんで、こんなになるまで止まんなかったんだよ?」
「え……だ、だって、花嫁さんが気になって……ずっと、後を追っちゃってたから……」
「なんだ、そりゃ……?足がそんなになるまで、やる事かよ……?」
吾郎に言われたあまりにもごもっともな事に、何も言い返せず、シュンとした顔で俯いた薫。その様子を見て、小さくため息をついた吾郎からの声が続けられた。
「脱いじまえばいいだろ?そんな靴」
「こ、こんな場所で、裸足になんかなれないよ……!そんなの、恥ずかしいじゃんか……」
「まぁ〜た、恥ずかしい、かよ……?足がそこまで酷くなってるってのに、面倒くせぇヤツだなぁ」
「う、うるさいな……!お前には、恥ずかしいって気持ちが無さすぎるんだよ!」
「俺にはそんなもん無くても、なんの問題もねぇけどな?んじゃあ……おじさんに言ってきてやるから、待ってろよ」
「い、いいよ……!日下部さん、花婿さん達とお話ししてるのに悪いから……!」
それを聞き、日下部がいる方へと振り返った吾郎。見つめた先には、確かに日下部が新郎を含めた何人かと談笑している姿が見えた。
とは言え……状況が状況だろう?と、思った吾郎が薫へと返答をする。
「あのなぁ……俺が話しかける位、何が悪いってんだよ?」
「こんな事で、話を中断させたら悪いだろ?そんな事もわからないのかよ……!」
叱りつけるようにそう言った薫に、呆れ顔となった吾郎。
小さなガキみたく、夢中になって立てなくなるまで歩き続けたヤツが何を偉そうに言ってんだよ……!と、言い返したい気持ちはあったが、それでまた薫との言い争いとなり時間を取られてしまうのは避けたかった。
とにかく、今は………
「ちょっと、いいか」
「は……?」
ガタンッ……!
薫のすぐ隣りに置いてあった椅子を、右腕だけで持ち上げた吾郎。
結構な大きさがあったせいで、さすがに片腕だけではバランスが取りづらく、薫の体に当たりそうになる……が……それは、上手く上半身をひねりながら避ける事が出来た薫からの声がかけられた。
「椅子なんか持って、どうする気だよ、本田……!」
そう大き目な声はかけたものの、吾郎からは振り向きもされず返答もされなかった。
その為……仕方なく、吾郎が離れてゆく姿をずっと目で追った薫に、今、自分がいる場所から少し離れた位置にあるテーブルの前で椅子を下ろした事が確認出来る。
そして、さらに……他の椅子が置いてある別の場所へと移動し、その中のもう1脚を運び始めている吾郎。
そんな吾郎の行動を、薫だけでなく、周りのゲストの何人かが不思議そうな顔をして眺めているのだった。
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