〜告白後のサンジ〜

「いいえ?どうでもいいなんて、とんでもない……!なんせ……茂野先輩は、俺の『兄貴』になる人っスからね」

「あ、兄貴……って、な、なんなんだよ………??」




大河からの呼び名の意味が理解出来ない吾郎に、疑問符だらけの表情が浮かぶ。と……そこへ、すかさず大河の言葉が続けられた。




「あれ……?だって……付き合い始めたって事は、いずれ姉貴と茂野先輩は『結婚』するって事スよねぇ……?と、したら……俺は先輩の可愛い弟っスよ?」




その言葉には、吾郎だけではなく寿也さえもがしばし固まる。

目の前の後輩がサラッと口にした、あまりにも重要な言葉への驚きで、かなり減速してしまった吾郎の思考回路……。

それをどうにか動かし、自分が返す言葉を見つける事が出来た吾郎の怒鳴り声が返された。




「たっ……た、た、大河ぁ〜〜!!て、てめ……だからっ、自分で可愛いとか言うなってんだよっ……!!?」




そんな……余白が無いほど真っ赤な顔となった吾郎からの怒鳴り声に、思わず目を丸くした大河。

もちろん、そうなった理由は吾郎に怒鳴られたから……では無く、その言葉の内容に驚いたからであった……。

そして大河は、腹を抱えて笑い出す。




「へえぇ〜〜!?怒鳴りつけるポイントはそこスかっ……!?すっげえぇ〜!!『結婚』は認めんだ……!!」


(本当だよ………)




心の中でそう呟いた寿也は、大河のつっこみに対し肩を振るわせ苦笑する。

笑い方は違う2人であるが、間違いなくその笑いの対象が自分である事が理解出来ている吾郎……。その要因を作った大河へと、言葉では無いお返しがされる。



バシイィンッ……!!



私室内に響いたその音は、吾郎が大河へと向かって投げ付けた枕が見事にキャッチされた音……。

その結果にも、怒りのレベルがアップした吾郎より、今度は枕では無く怒鳴り声が飛ばされた。




「あんのなあぁぁ〜〜!?俺の事をからかうのが、そんなに楽しいのかよっ!?」




色々な要素が重なった事で、真っ赤な顔のままとなっている吾郎……。

その分かりやすい表情に、吾郎の心根の真っ直ぐさが現れている気がする大河は、苦笑しながらキャッチした枕を軽く投げ返す。




「別に、からかおうと思ってるわけじゃないんスけどね……?どうも茂野先輩といると、結果がこうなっちゃうってのかなぁ……」

「ざ、ざけんじゃねぇぞ、こら……!そんなの、なんの理由にもなってねぇだろが……!?」

「そうスか……?あんま凄いヤツって、なんか意地悪したくなるもんだと思うんスけどねぇ……」

「は……?な、なんだって……?」




ボソッと呟かれた大河の声が聞きとれず、すかさず聞き返してみた吾郎。だが、すぐにその質問に答えるは事なく、ドアへと向き直してからの大河の声が掛けられる。




「姉貴の彼氏への挨拶代りに、ちょっとふざけてみただけだって言ったんスよ……!それじゃあ……姉貴共々、これからもよろしくっス『兄貴』……!」




バタンッ……!!




吾郎へと、ほんの少しだけ振り向ながらのその言葉……その後、素早くドアを開け廊下へと出た大河によって即座にドアが閉められた。

そして……再びの呼び名に赤い顔のまま呆然としたようになっている吾郎。

その様子を見て、ククッと笑い出した寿也への八つ当たりを始める吾郎なのであった……。




(あ〜あ……こりゃ、明日は佐藤先輩にも謝らないとだな……)




吾郎達の私室から聞こえ始めた怒鳴り声を聞き、そう心の中で呟いた大河。

出て来たドアの前で、つい足を止めてしまっていた為に聞こえたその怒鳴り声の主への想いを、歩き出しながらの大河が考え始める。



吾郎と海堂(ここ)で過ごすようになってから、2ヶ月が経った……。

まだたった2ヶ月とも言える月日の中で、同じ『野球』をする者として、吾郎の実力の高さはもう嫌と言うほど知った。

そして、その実力を支えているのは、人の何倍も努力するあの姿なのだと言う事も……。

昔から、努力や根性といったものが苦手であった自分だが、そんな自分がたったの2ヶ月の間でそれが何の苦にもならなくなったのだ。

それはきっと……どうにも追いたくなるあの背中のせい……。

それほど海堂(ここ)で見る吾郎の姿は、同じ『野球』をする者として……そして、同じ『男』としても心底格好よく見えるものであったから……。




「…あの人が……マジで『兄貴』になる日がくんのかねぇ……」




自室へと戻りながらそう独り言を呟いた大河……。その顔には、自然と笑顔が浮かんでしまうのだった……。




一方………吾郎達の私室では………

相変らず、二段ベット上から止めどなく文句を投げつけてくる吾郎へと、寿也が謝りの言葉を返し始める。




「もう、わかったってば吾郎くん……!笑ったりして、悪かったよ」

「ったく……!自分は、あいつにからかわれる事が無いからってよぉ……なんで、いっつも俺ばっかなんだよなぁ……」

「僕も、全くからかわれ無いわけじゃないけどね……。でも……さっきのは、ただ吾郎くんをからかってただけでは無いと思うけどな」

「あ、あれが、からかってる以外のなんだってんだよ……!」

「だって……自分の姉さんの彼氏として吾郎くんを認めてくれてるって事だし、それどころか『兄貴』になってもいいと思われてるって事でしょ?それって、喜んでいい事じゃないかな」




寿也に言われた『兄貴』の言葉に、再び顔が赤くなり始めてしまった吾郎……。それを振り払う為に、瞳を吊り上げ少々荒げた声を上げてみる。




「そっ……そんなもん、いきなり言われても素直に喜べるかってんだよ……!か、彼氏ってのも、今日からなんだぞ今日っ……!」

「あははっ……!確かに、そうだよね……?大河ってば、少し気の早い賛辞だったかもなぁ」

「は……?さんじ……って、なんだよ……?」

「褒め言葉って事だよ。僕は、あの『兄貴』呼びは大河から吾郎くんへの信頼を表した褒め言葉だと思うんだよね」

「褒め……言葉………??」




寿也からの説明を聞いても、あれが褒め言葉とは到底思えない吾郎がジト目に変わる。

そんな吾郎の様子を見て、全てを理解した表情でクスリと笑った寿也……。

その後、疲れている吾郎の為に早めに寝る準備をし始める寿也なのであった……。


薫への告白……そして、その後の2つの「サンジ」(惨事と賛辞)を受けた吾郎の1日が、今、終わろうとしている……。


end


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***********************

あとがき

寿也の言う通り、ちょっと気の早い大河の『兄貴』呼びのお話でした(苦笑)

原作では、ゴロカオ結婚後も『兄貴』呼びがなかなか出来ていない大河でしたが、この作品を書いている当時、まだそんな原作設定になるとは知らない私は、しっかり『兄貴』呼びをさせてしまったわけです。
と、言っても……こんなふざけた感じでですが……(笑)

とにもかくにも吾郎弄り好きな私なので、またまた?こんな作品となってしまいました〜!
薫ちゃんの事で弄られる吾郎がもう〜〜大好きで(笑)

ここまでのご閲覧、誠にありがとうございました。

悠 真那より

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