〜見たことのない君〜 全12P 

「おい、清水……!」

「え……?な、何……本田……?]




近付いてくる吾郎の方へと振り返った、ドレス姿の薫。

相変らず別人にしか見えないその姿で、座っている高さから上目使いに見つめられた事により、吾郎の顔は僅かに染まり言葉が詰まる。




「お、お前……ちゃんと、飯食ってんのかよ……?ここに来てから、チョロチョロ動いてばっかだったしよぉ」

「え……た、食べてるよ〜!そんなの、気にしてくんなくても……」




グウウウゥ〜〜


と……見事なタイミングで鳴ったお腹を、慌てて押さえた薫……。

それを見て、吾郎の表情は呆れたジト目へと変わった。




「なんだそりゃ……?それのどこが、食ってるってんだよ?腹減ってるまんまじゃんか」

「あ、あたしなら、大丈夫だから……!ほら、いいから本田は好きに食べてこいって」




右手を動かし、あっちに行けよ!な、動きをして見せた薫の仕草に、吾郎の片眉がピクリと上がる。




「思いっきり腹鳴らしといて、何が大丈夫なんだよ……!?目の前に、こんな美味いもんが山ほどあるんだから、さっさと食えばいいだろっ!?」

「ちょ、ちょっと……そんな大きい声を出すなってば……!恥ずかしいだろ……!」

「なぁ〜にが、恥ずかしいってんだよ……!いいから、来いっての……!」




薫の腕をつかみ、椅子から引っ張りあげようとした吾郎。それにより、少しだけ椅子から体が浮いた薫の声が上がる。




「イッ……イタイッ………!!」




その言葉に驚き、吾郎は慌ててつかんでいた薫の腕を離した。

そして、再び椅子へと座った薫を見下ろすと、そこには、言葉通りの痛みのせいか?しかめっ面となっている薫の姿があるのだった……。




「ど……どうしたんだよ……?俺……そんなに強くつかんでねぇぞ……」

「ち、違うよ……本田がつかんだ腕じゃなくて、足が痛いんだってば……」

「足ぃ………?」




薫から返された言葉に、純粋な疑問を感じた吾郎。

その答えを知る為に、薫のスカートへと手を伸ばしめくってみる……と………。



ガキィッ……!! 



長いフレアスカートの中を確認する為、低くかがんだ吾郎の頭に容赦なく落とされた薫のゲンコツ。

そのおかげで、なんの確認も出来ないまま吾郎の手はつまんでいたスカートの一部から離れる事となった。




「本田のバカッ……アホッ……!!何んて事してんのさっ……!?」




つい先程……吾郎の声量を注意したはずだが、間違いなくそれよりも大きい怒鳴り声を上げてしまった薫。

だが、目の前の吾郎への怒りのせいで、ゲストの何人かが振り向いている事にも気付けていないようだ。

そして……かなりの強さのゲンコツによって、思わず自分の頭を抱えるように押さえた吾郎からの文句が返される。




「こ、このヤロォ〜〜!!ひ、人がせっかく、足の様子を見てやろうとしたってのに、なんでゲンコツなんかすんだよっ……!?」

「こ、こんな所で、女の子のスカートめくったりするからだろっ!ゲンコツされる位、当然……ツッ……」




吾郎とのこのやりとりで、椅子に座ったままとは言え思わず足を動かしてしまった薫の顔が痛みに歪む。

それを見て目を丸くした吾郎は、自然と声量も落とし、薫へと話しかけた。

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