〜恋人と呼べる人〜
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翌日………
暖かな春の日差しの中、初めて海堂学園高校の厚木男子寮を訪ねた薫。
その大きさに驚きながら敷地内を歩き、寮の建物の入口前まで辿り着いた薫であったが……そこから先へは入るに入れないでいるのだった。
「家族だって伝えたら、門からは入れてもらえたけどさ……ここから先は、どうすんだよぉ……」
目の前の、大きな建物の玄関付近に人気(ひとけ)は感じられない……。ここが男子寮とわかっている薫には、この状況で1人勝手に建物内に進む勇気は持てなかった。
「大河は、携帯鳴らしても出ないし……参ったなぁ……」
カキイイ……ンッ………
途方に暮れ始めていた薫の耳に聞こえた、金属バットでの打撃音……。それにより、パアッと表情を明るくした薫が声を上げる。
「あ、そっか……!グラウンドに行けば、練習中の大河がいるのかも……!」
その後も聞こえ続ける打撃音がする方向へ、足早に歩き始めた薫であった……。
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その大きさのおかげで、迷う事なく厚木寮内の練習グラウンドに着いた薫は………
(う、わあぁ〜〜すっごいグラウンドだなぁ……)
グラウンド内を見渡す事の出来るフェンスの外から、その設備や野球部員達の練習風景を眺めながら、薫は率直に感じた事を思い始める。
(すご……やっぱ1人1人のレベルが半端ないよ……それに、うちもグラウンドの設備は悪くない方だけど、こりゃ段違いだなぁ……。学校内のグラウンドなのに、観客席まであるじゃん……)
『野球』好きな薫……。大河を探すという目的も忘れ、その目の前の高度な練習風景についつい魅入り始めてしまったその姿に、グラウンド内の数人の野球部員が気付き始めた。
「なあ、フェンスの外に私服の女子がいんだけど……」
「へっ、マジかよっ!?どこに……!?」
「なんで、ここまで入ってこれたんだ?誰かの知り合いかよ……?」
そんな部員達の声が徐々に広まり、その声に気付いた寿也もフェンス外へと目を向ける。
「あ、れ……本当だ……。今日はイベントもないのに、なんでこんな所に……?」
思わず、そう声に出した寿也……。それを聞き、隣りでストレッチをしていた吾郎が寿也へと問いかける。
「あ……?どうかしたのか、寿?」
「あそこに、女子が1人でいるんだけど……なんでだろうね……?」
「は?女子だって……?」
疑問の声を上げながらの吾郎が、寿也の指が差し示している方へと視線を向ける。
ここからだとかなりの距離……視力には自信のある吾郎にも、ほんの小さくしか見えない1人の女子の姿……。
だが……それが薫とわかり、目を丸くする吾郎なのであった……。
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