〜恋人と呼べる人〜

〜恋人と呼べる人〜




海堂学園高校2年生となり、右足の負傷からも完全復帰した後、投手として公式戦への出場を2回に渡り果たした吾郎……。


その実力とビジュアル……そして元プロ野球選手の父親を2人持つ吾郎は、最近話題となっている高校球児達の中でも特に世間から熱い注目を浴びるようになっていた。


本人は全く望んでいないこの注目度の高さに、ただただ嫌気を感じながらも、次に控えている神奈川県大会に向けて、海堂の仲間達との練習に日々励んでいる吾郎であった……。




そして………4月となったある日のこと………

吾郎と同じく、高校3年生となった薫の部屋に携帯の着信音が鳴り渡る。



♪〜〜♪♪〜〜〜♪〜



夕食を終え、自室でのんびりと雑誌を見ていた薫……。机上で鳴り始めた携帯へと手を伸ばしながら、僅かに首を傾ける。




「メールじゃなくて、電話か……誰だろ?」




そう言いつつ、手に取った携帯の画面に表示されている名前。それを見た、薫の瞳が丸くなった。




「へえ〜大河じゃん?あいつが電話してくるなんて、珍しい〜」




3月に中学校の卒業式を終えると、すぐに海堂厚木寮へと入寮した大河。

その後、なかなか連絡もしてこない大河の事を親が気にしていた為に、先日電話で話した吾郎にその様子を聞いた位なのだ。

それでも、すぐには電話をかけてくる事のなかった大河が、今ようやく電話をしてきたと思いながらの薫が着信操作をする。




「もしも〜し」

「よお、姉貴……!明日の土曜って部活あんの?それとも、デートの予定でもあったりする?」




電話の向こうから聞こえたのは、久しぶりに聞く事ができた元気そうな大河の声。

で、あったのだが……その言葉の内容に、顔を引きつらせた薫が低音となった声での答えを返す。




「いきなり……何のイヤミだよ……?まだ新学年になったばかりで、部活は無いけどさ……デートなんてのは、もっとあるわけないだろ!」

「そっかあ〜相変わらず暇な姉貴で良かった〜!実は、急な頼みで悪いんだけどさぁ……」

「は?頼み……?」




その後で続けられた大河からの頼みは、寮に持ってくるのを忘れたCDを薫に届けてほしいと言う内容だった……。

自宅にいる時、毎日のように聞いていたそのCDは、大河にとって大事なヒーリング効果がある物なのだそうだ。

とは言え……と、思った薫の言葉が返される。




「あのさぁ……そのCDが大事だってのはわかったけど、なんでわざわざあたしが厚木まで届けなきゃいけないんだよ?ちゃんと包んで送ってやるから、それでもいいだろ?」

「へえ……あ、そう……。まあ、それならそれで俺は構わないんだけどさぁ……ここに来れば、茂野先輩もいるし……と、思ったのにな」

「え………」




小さく鳴った薫の胸。そうだった……厚木寮には、吾郎もいるのだ……。



先日……ドキドキしながら、自分からかけた吾郎への電話……。

それは、ここ最近で新聞や雑誌にも写真付きで載るようになってしまった吾郎と、いつも通りの会話を楽しめた時間であった。

このまま有名になり、自分からは遠い存在になってしまうのではないかと不安に感じる事の多くなった吾郎と、またこうして電話で話したい……そして、また会いたい……と、そう思いながら会話をしていた、あの時の薫だったのだ……。




「で……どうすんの……?明日は、暇なんだよね?」




不敵に笑う大河の様子が目に映り、悔しさを感じた薫……。で、あったが……どうにか、しぶしぶといった口調を保ちつつ、厚木までの届け物の承諾をした薫なのだった……。

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