〜恋人と呼べる人〜

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2人がバス亭に着いてから、15分ほどが経過した頃………。

薫が乗るバスが、遠くから近付いて来る姿がようやく見え始めた……。

そこで、薫からの声が吾郎へとかけられる。




「あ……バスが来た……!それじゃな、本田……!予選まであと少しだから、頑張れよ?」

「おう……!そんなの言われなくても、今から気合い入りまくってっからな!」

「と……そうだ、違う違う……!本田は、頑張り過ぎちゃダメなんだからな……!?張り切り過ぎて、ケガとかすんなよ……!?」

「お、おう……わかってるよ……」




薫から、怒り顔で指を差され、苦笑してそう答えた吾郎……。

だが、その表情を即座に変え、ニッと笑った吾郎が薫の目の前に自分のこぶしを差し出す。

その行動に、少し目を丸くした薫であったが、その後すぐに吾郎のこぶしよりも一回り以上小さい自分のこぶしをコツンッとぶつけた。

と……ちょうどここで、到着したバスが2人の前で停止する……。




「おし……!予選までに、もっと強くなってみせっからな……!気をつけて帰れよ、清水……!」




吾郎のその声と同時に開いたバスのドア……。そこに乗り込みながら、一度振り返った薫が吾郎へと微笑みかける。




「じゃあ……またな、本田」




その後……薫がステップを上がりきると、プシュウウン……と、音を立てて閉められたドア……。

すぐに空いていた一番後ろの席に座った薫は、角を曲がるその時までバス亭に立つ吾郎に向かって手を振り続けた……。

そして……バスが完全に角を曲がった後、ちゃんと前を向く為に座り直してからの薫が想う………。




(『彼女』との別れ際に、こぶし出すヤツなんてあいつ位かもなぁ……でも、まあ……それに対して、すんなりこぶしを返すあたしもあたしなんだろうけどさ………)




そんな事を考えながら、自分のこぶしを見つめた薫……。

先程、ぶつけた吾郎のこぶしは、この自分のこぶしよりも、ずっとずっと大きかった……。

リトル時代は、さほど変わらなかったはずの2人のこぶし……それが、17才になった今は、あれほど違くなってしまったのだ……。

それは……お互いに、もう小学生では無い証拠……けれど……やはり吾郎には、あの時のままの部分が多く残っている気がする………。




(あたしは……あんな、あいつらしさが大好き………これからも、ずっと……本田とは、こんな風にしていけるといいなぁ………)




吾郎と合わせた右手のこぶしを、自らの左手で包んだ薫……。

それによる温もりと共に感じる、今までには無い幸福感にも包まれながら、少し長めの帰路へとつく薫であった………。




かたや………

バスの中の薫の姿を、角を曲がるまで見送った吾郎は寮への道を戻り始める……。




(清水が……俺の『恋人』……と……じゃねぇや……『彼女』になるなんてな……?つか……俺の中に、こんな感情があるとは思ってなかったぜ……)




昨日、気付いたばかりの薫への想い……だが、その想いを改めて考え始めてみると、思いもしていなかった強い感情が自分の中にある事を吾郎は知る………。




(寿と清水……そう思ったあの時……マジに、あいつを失くすかと思ってたまらなくなっちまった……。けど、もう……誰にも譲れねぇ……失くす事なんて考えられねぇ……あいつに感じるこの想いは……俺の中の『野球』へのものと似てる………)




そんな風に思えてしまった吾郎は、自分のその考えに笑ってしまう。




「なんて……あいつに言ったら、怒るよなぁ……?『野球』と一緒……じゃなあ………」




自分へと怒声を浴びせる薫の姿が想像でき、更に、歩きながら1人で笑い続けてしまった吾郎……。

だが……その笑いが落ち着くと、もう一度バスが去った方向へと振り返った吾郎が呟く。




「けどな、清水……こうなった以上、絶対に離さねぇぞ……?覚悟しとけよな……?」




そう言った後……再び寮へと戻る方向に向き直り、走り出した吾郎………。



5月の風が、爽やかに吹く中………



本日より『幼馴染』を卒業した吾郎と薫の、『恋人』としての時間がカウントアップし始める………。



end

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あとがき

サイト運営真っ盛りの頃の、かなり思い出深い作品(笑)

とは言っても、今回で相当書き直してしまったので、別作品化してますがベースは変わっていない……はずです(苦笑)

原作とは違う設定(薫ちゃんの気持ちを知らずに吾郎から告る)がやりたかった為に、寿也と大河も参加のこんなに長い話になってしまいました〜!

とにもかくにも、薫ちゃんの事で吾郎を色々と悩ませたくて仕方のない私です(笑)

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました!

書き直した割にはレベルはちっとも上がっていない長いお話でしたが、この場までお付き合い下さった皆様に、本当に本当に感謝を申し上げます。

悠 真那より

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