〜見たことのない君〜 全12P 

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ブティックを出発してから、約15分後………。

3人が無事に到着したのは、サンフランシスコシティ内にある薫の想像通りの立派な住宅であった。

そして、本日のホームパーティーのメイン会場となる庭へと進んだ吾郎達。

その姿に気付いた、この家の主である新郎、新婦2人と、既に揃っていた他の数十人のゲスト達が、3人をにこやかに出迎えてくれたのだった………。



そして、時はしばらく過ぎ………。




ガツガツガツガツッ………!


広い庭に余裕をもって置かれた、6台の大型円形テーブル。

その上に、数え切れないほど並んでいる料理を吾郎はひたすら食べ続けていた。

立食式となっている会場では、自分専用として手にしている皿の上に好きな料理を乗せ、飲み物も持ったまま移動している人物が多い。

その中で、片腕が不自由な吾郎は、違う料理を求めてテーブル間を移動する以外はまず動く事もなく、しっかりとテーブル上に置いた自分の皿の上の料理をせっせと口へと運んでいるのだ。

その大人顔負けの食の勢いに、吾郎の側を通りすがるゲストのほとんどから「すごいぞ!」「もっと、いっぱい食べろよ!」などの、笑顔での声援が送られるのであった。

そんな吾郎の元へ、他のゲストとの交流の為その側を離れていた日下部が戻る……。




「しっかり食べてるかい、吾郎くん?」

「あ、おじさん……!すげぇよ、ここにあんの全部美味いもんばっかだぜ……!」

「そ、そうかい……?それは良かった」




自分へと振り返った吾郎を見て、思わず苦笑を浮かべた日下部。

口元にあらゆる食材が付いている吾郎の顔は、ここの料理をどれだけ楽しんでいるのかを非常にわかりやすく伝えてくれたからだ。 

と……日下部が思っている間に、また完全フォーマルな姿とは不釣り合いな食べ方を開始した吾郎。

その様子を見ながら苦笑気味な表情を戻せないままでいた日下部に、フライドポテトを口に放り込みながらの吾郎が質問をした。




「ところでさぁ……。ギブソンって、ここに来んの……?」

「え、ああ……。残念ながら、ミスター・ギブソンは来られないんだよ。オールスター戦の真っ最中だからね」

「やっぱ、そっか。もしかして、今夜の試合までの時間で来るのかとも思ったけど……そんなの無理だもんな」

「実は、今日のこのパーティーには、吾郎くん達が彼のピンチヒッターって事で出席してるんだよ。君達が、彼の代わりに新郎、新婦へのお祝いとしてここでの時間を楽しんでくれれば、きっと彼も喜ぶと思うんだ」

「へぇ、そう言う事だったんだ。ま、でも……こんな料理を代わりに食えてるだけで、俺はすっごく楽しませてもらえてっからさ?おじさんから、ギブソンにそう伝えといてよ」




すっかり、ここに並ぶ料理に魅了された吾郎からの笑顔での言葉に、日下部が頷く。

そしてまた、自分用に取ってある皿の上の食べ物を口にし始めた吾郎へと、今度は日下部からの質問がされた。




「そう言えば、清水さんはどこだい……?」

「え……?あれ……清水のヤツ、ついさっきまではそこら辺にいたけどな……」




口を動かしながら、会場を見回した吾郎。すると、同じように辺りを見回し始めた日下部よりも、吾郎が先に薫の姿を見つける。




「あ……!あいつ、あんな所にいる……!」

「え……?どこに?」




日下部に問われ、吾郎が指差した先は、ホームパーティーの主役の一人であるウェディングドレス姿の新婦の後方だった。

新婦とその友人達が囲むテーブルから、真っ直ぐ後ろに下がった位置にある植え込み。その前に2脚並んで置かれている椅子のうちの1脚に、1人で座っている薫の姿がそこにあった。




「ああ、本当だ……!ちゃんといるなら、それでいいんだ。じゃあ……僕はこれから、ミスター・ギブソンの友人である、新郎のほうにご挨拶してくるよ」




そう言うと、手を上げながら吾郎の側から離れてゆく日下部。

それに答えるように日下部へと手を振った吾郎は、またすぐに視線を薫へと戻す。




「あいつ……飯も食わずに、あそこで何やってんだ……?」




これだけの料理や飲み物が並んでいる中、手に何も持っていない薫を見ていぶかしげな表情となった吾郎。

その吾郎の足が、薫の方へと向かい始めるのだった……。

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