〜見たことのない君〜 全12P 

「凄いな、清水さん……!まるで、お姫様みたいだよ」


「え……や、やだな〜もう〜〜」




日下部からの言葉に、恥ずかしそうな表情で答えながら吾郎達の方へと歩み寄り始めた薫。

そして吾郎は、自分に向かってゆっくりと近付いてくる薫から、丸くなった瞳のままの視線を外せずにいる。




「へぇ〜!なんだよ、びっくりだな……!本田ってば、そういう格好も意外と似合ってるじゃん……!」




いつも通りの薫の口調。そして何より、再び右肩をポンッと軽くひとはたきされながらのこの言葉のおかげで、ようやく吾郎は薫に見とれてしまっていた事に気が付いた。

そしてすぐに、その事への動揺が残った声での言葉を返し始める。




「お、お前こそ……!馬にも衣装とかってやつだよな……?けど、そんな格好で男女のお前がまともに歩けんのかよ?」


「だ、誰が、男女だよっ……!?それに、今のは馬じゃなくて馬子の間違い……って……もううう〜〜!こっちは一応、褒めてやったってのにっ、なんだよ……!!」




真っ赤な顔で怒る薫。その見慣れた様子に、吾郎はすっかり普段の調子を取り戻す。




「褒めるところが見つからねぇんだから、しょうがねぇだろ?確かに、その服は格好いいと思うけどな?」

「お、女の子の服なんだから、格好いいじゃなくて可愛いの間違いだろ……!?ことわざもまともに言えないし、ほんと恥ずかしいヤツだな……!」

「なっ……なんだとぉ〜〜」

「「ウウウ〜〜〜!」」




再び、顔を突き合わせ睨み合った吾郎と薫……。

最高にドレスアップしたこの出で立ちのまま、手加減無しの取っ組み合いでも始まりそうな2人の様子に、日本語がわからない店員達の仕事用笑顔も引きつり始める。

直後、それをどうにか制止した日下部に腕をつかまれ、足早にブティックを後にした吾郎と薫であった……。




************




本来の目的地へと向かい始めた車内には、自分が着ているドレスを見てウキウキしている薫の姿があった。

つい先ほどまでの自分との事など、すっかり忘れたかのようなそのご機嫌な様子に、呆れ顔となった吾郎が思う。




(あんなもんが、そんなに嬉しいのかねぇ……?)




ブティックに着くまでとは見た目が別人になっている薫を、つい隣りの席からチラッと見てしまうのを止められずにいた吾郎が最初に思った事がそれだった。

だが、その次には………。




(ま……清水も、一応は女だからなぁ……)




そう思いを変えた事で、ドレスのあちこちに触れながら幸せそうにしている薫の様子に、自分でも気付く事なく微笑みを浮かべる吾郎なのであった……。

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