〜見たことのない君〜 全12P 

〜見たことのない君〜 2009年6月更新





「なあ、おじさん……。これから、どこに行くんだよ?」




ここは、昨日から滞在しているアメリカ西海岸のサンフランシスコ……。

街中を移動中の車内で、メジャーリーガー ジョー・ギブソンの元通訳であった日下部に吾郎がそう問いかけた。




「なぁ〜に言ってんだよ、本田……!昨日、ちゃんと日下部さんが話してくれただろ?」




日下部からの答えが返されるよりも先に、そう口を挟んだのは薫だ。

今回、ギブソンからの招待を受け、MLBのオールスター戦を一緒に観戦する者を決める事にした吾郎。

退院したばかりで病み上がりの桃子に代わり、吾郎と渡米する権利を手にする為、薫、小森、沢村でのジャンケン勝負が行われた。

その結果、見事勝者となった薫が、昨日から吾郎と共に往復ファーストクラス便乗での豪華なサンフランシスコ旅行を楽しんでいるのだ。

そして滞在2日目となった今、車の後部座席に吾郎と並んで座っている薫の言葉がさらに続けられる。




「夕べ、ギブソン選手のお友達からランチの招待があったけど、どうする?って聞かれたじゃんか?本田も「いいよ」って答えてたくせに……忘れちゃったのかよ……?」

「ああ〜そう言えば、そうだった……かな……?確か、あん時はやたらと眠くて、おじさんの話をまともに聞いてなかったんだよなぁ……」

「なにそれ!ほんと、しょうがないヤツだなぁ〜!でもさ、でもさ〜アメリカの家って、どんな感じだと思う?すっごく広くて素敵な気がするんだよねぇ〜!ね、ね……!きっとそうですよね、日下部さん?」




その言葉が終わる頃には、両手を組み嬉々とした口調で日下部に問いかけた薫。

どうやら、三船を出発するなり始まっている薫のハイテンションモードは、いまだに衰えていないようだ。

はっきりとそれを示しているその超ご機嫌な様子に、吾郎の表情は薫とは対照的とも言える、うんざりしたものへと変わった。




「僕も初めてお邪魔するお宅だから、はっきりとは答えられないんだよ。でも、ミスター・ギブソンから聞いている住所は高級住宅地の一角だから……きっと、清水さんの想像通りの家なんじゃないかな?」

「うわぁ〜やっぱり……!ますます、楽しみになってきちゃったなぁ……!」

「日本と比べれば、アメリカの家はどこも大きいものばかりだけどね?ただ、これから伺う先では、ガーデンパーティーへのお誘いを受けているから……間違いなく、庭も広いお宅ではあるんだろうな」

「ガーデンパーティー!?」

「…パーティーって……なんのだよ……?」




喜び溢れる声を上げた薫と、見るからに面倒そうに質問をした吾郎。

そんな2人の様子を見る事は出来ない、走行中のオープンカーのハンドルを握る日下部からの答えが返される。




「ああ、そうか。夕べは、招待された理由までは話してなかったっけね?実は、彼の友人が結婚したんだ。それで今日は、新居のお披露目を兼ねてお祝いのホームパーティーが開かれるんだよ」

「け、結婚のお祝いなんですか……!?」

「え……ちょ、ちょっと、嘘だろ……!?なんで、俺達がそんな所に行かなきゃいけないんだよ!?」




バシイイィッ……!! 



と、響いたのは……吾郎の言葉が終わった途端、その右肩が薫によって思い切り叩かれた音……。




「イッ……テエエェ――!?な、何すんだよっ……清水――!?」

「うるさいっ……!!あんたは、礼儀ってもんを知らないの!?お祝い事への招待なんだから、だまって素直に行けばいいだろっ……!?」

「だ、だからって、叩くことはねぇだろっ……!?自分がバカ力だってのが、まだわかってねぇのかよっ……!?」




そう怒鳴りながら、自分の左腕を指差した吾郎。

実は、今から数時間前に起きてしまった「ちょっとした事故(薫談)」により、吾郎の左腕は肩から吊られる状態となっているのだ。

本日早朝、眠っていた吾郎の身に起きたのは、ベット上からの落下(突き落とされ?)事故。

その後、大慌てで病院へ連れて行かれる事となった吾郎の診察結果は、左腕の骨にヒビが入っていると言うかなり大そうなものであった……。




「ば、バカ力だなんて、失礼なヤツだなぁ〜!?今朝は、お前のせいで乙女の危機を感じたから、ああなっちゃっただけだろっ……!?」

「あ、あのなぁ〜〜横で寝てただけの俺に、何の危機を感じたってんだよっ!?大体……!お前のどこが乙女だってんだっ!冗談もほどほどにしろよなっ……!?」

「なっ……なんだとぉ〜!?」

「「ウウウ〜〜〜!」」




お互いの顔を近づけ、睨み合う2人……。

今にも飛び掛かり合いそうな2人の様子がルームミラーに映った事により、日下部からは慌てた声がかけられる。




「ま……まあ、まあ、2人ともっ……!ケンカはそれ位にして、パーティーでは美味しい料理がビュッフェスタイルで並ぶそうだから、仲良く好きなだけ食べるといいよ」

「え……ビュッフェ……なの……?」

「好きなだけ……食っていいんだ……?」




「ちょっとした事故」のおかげで、慌ただしかった今朝……。

そのせいで朝食を摂る時間が少なかった2人は、まだ昼食には早すぎる今の時点で、既に空腹状態になっているのだ。

そんな2人の頭の中には、揃って沢山のご馳走が並ぶ光景が浮かび、これまた揃ってお腹の虫さえ鳴りそうになる。




「ただ、その前にちょっと寄る所があるけどね?」

「「寄る所……?」」 




ここで、まさに揃った2人同時の発声による質問。

それにより、思わずお互いの顔を見合わせた2人……だったが……。




「「ふんっ……!!」」 




目と目が合ったその瞬間、再び同時に発声しながら思いきりそっぽを向く2人なのであった………。

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