〜恋人と呼べる人〜

「実は……姉貴から、はっきりと茂野先輩が好きだとかは聞いた事ないんスけどね。家にいても、それがわからないわけないだろ!って位、何かと茂野先輩の話を聞く事が多かったんスよ」

「そう……それを、清水は聞いてきてあげたんだ」

「違いますよ……そんな優しい感情なんかじゃなくて……ただ、8年間ずっと聞かされてきただけなんスよ……!だからだと思うんスよねぇ……茂野先輩をつい弄りたくなるのは……」

「なるほど……ね……?だからなのか……」




初対面の時から、不思議なほど吾郎を弄りっぱなしでいる大河。しかもそれは、大河が海堂に入学して以来ずっと過熱し続けているように見えていた。

その理由が今はっきりとわかり、スッキリとした笑顔を浮かべた寿也……。

そんな寿也の横で、再び薫達の方を横目で見ながらの大河が言葉が続く。




「けど……茂野先輩が、姉貴に聞かされてきた通りの凄い人なんだってのが、本人に会ってよくわかりましたよ……。なんで……出来れば姉貴の片想いも、いい加減、進展すりゃいいなぁとは思ってんスけどねぇ……」




そう言った大河の表情に、姉への想い(優しさ)と、吾郎への想い(尊敬)の両方を見てとれた気がした寿也……。

その想いに共感出来た寿也は、微笑みを浮かべてからの言葉を発した。




「そっか……そうなる為に、まず問題なのは吾郎くんの方だね……?清水さんの事を、どう思ってるのかな……」

「佐藤先輩がそう言うって事は……少なくとも、今は茂野先輩に好きな子はいないってことスか?」

「と、思うけどね……?正直、全く聞いた事がないからなぁ……今度、聞いてみる事にするよ」

「すいませんねぇ……佐藤先輩まで、巻き込んで」




と……謝りながらも、その顔は笑顔となっている大河。それを見ながらの、寿也からの言葉が返される。




「よく言うよ……さっき僕がこの事に気付いた時点で、そうさせるつもりだったんだろ?」

「あ……バレてました……?さっすがだなぁ〜やっぱ佐藤先輩は、あっちの先輩とは読みが違うっスよねぇ〜」




そう言いながら、立てた親指で吾郎を指差した大河に、寿也のきっぱりとした声がかかる。




「僕が出来る範囲での協力はするよ。けど……それでもダメな事だってあるからね?」

「もちろん、それはわかってるつもりっスよ……なんせ、恋愛(これ)ばっかは努力だけでどうなるもんでもないし……」




と……そこまでは真顔で答えていた大河が、ここで突然ニッと笑う。




「茂野先輩と姉貴がうまくいかなかったら……佐藤先輩が、もらってくれればいいんじゃないスか……?」

「えっ……ぼ、僕っ……!?」




その急な言葉に、自分を指差し驚く寿也。そんな寿也に、苦笑した大河の言葉が続いた。




「冗談スよ……!佐藤先輩だなんて、姉貴にはもったいないし……第一、姉貴の想いはバカが付く位に頑強なんで、そうそう揺らぎそうもないですしねぇ……」

「もったいないなんて事は無いけど……とにかく大事なのは、本命だからね」




そこまでを苦笑気味で話してから、ほんの2、3秒だけ無言となった寿也であったが、その後また真顔に戻り語り始める。




「そうだね……吾郎くんの意識を探るところから進めてみようか……?ただし、あまり周りの僕らが慌てないようにして、清水さんを傷つけないよう慎重にね?」

「うわ、心強〜い……!それじゃあ、茂野先輩への探りは佐藤先輩にお願いしていいんスよね?」




かなり嬉しそうな笑顔でそう言った大河に、腕を組み笑いながらの寿也が言葉を返す。




「へええ……清水に、こんな姉さん思いのイメージは無かったなぁ……」

「え………」




珍しく、照れた表情になり頬さえ赤くした大河。

それを隠す為にフイッと横を向いた大河は、表情を不機嫌顔へと変えてから答える。




「別に……姉貴の恋路に、興味があるわけじゃないんスけど……そろそろなんかしら動いてくんないと、マジにイラつくんで………」

「そう……?」




大河の言葉が真ではない事を見透かし、クスッと笑った寿也。

そんな寿也を見て、自分の状況が悪い方向に行っている気がし始めた大河は、それを上手く避ける為に思いついた事を伝え始める。




「あのぉ……あっちは、しばらくはあのまんまみたいだし……姉貴から受け取るもんも受け取ったんで、俺は一度、部屋に戻って風呂に行ってきちゃってもいいスかね……?」

「え、ああ……きっと、今なら空いてるだろうし、いいんじゃないかな?」




薫の周りにいる、大勢の3年生部員達の姿を見ながらの寿也からの答え。それを聞き、大河からは会釈付きでの挨拶が返された。




「んじゃあ……後で、またここに戻りますんで……お先っス……!」




そう言って、私室へと戻り始めた大河を見送る寿也……。

その後、食堂のドアから出て行った後輩への印象を、微笑みながらの寿也が呟いた。




「ちょっと、生意気だけど……いい子なんだよね……」




まだ、後輩となってからの月日は浅いはずの大河……。

だが、何故か?他の後輩達には無い親近感を覚える事の多い大河を、どこかで不思議に思う寿也なのであった……。

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