〜恋人と呼べる人〜

「あのさ……ちょっと、聞いていいかな……?」

「え……あ、はい、なんスか?」

「清水さんに……好きな人がいるかどうか、知ってる……?」

「…は………?」




大勢の男子に囲まれ、困った笑顔での応対を続けている薫を見ながらの、寿也からの質問。

その余りにも思いがけない寿也からの質問に、思いきり目を丸くしてしまった大河であったが、すぐに表情を元に戻してからの返事をする。




「…それって………どういう意味で質問してるんスか……?もしかして、佐藤先輩が姉貴を気に入ったから……とか……?」

「え………?」




大河の言葉に、今度は寿也の目が丸くなる。更に、顔に赤みさえ帯び始めた寿也からの慌てた声が返された。




「そ、そういう事じゃなくて……!今日、清水さんの様子を見ていて、もしかしたら吾郎くんの事を……?って、思ったからさ……」




その寿也の答えには、再び目を見開いてしまった大河……。だが、これまたすぐに、ニッと笑った大河の声が返される。




「へええ……確かに、超単純でわかりやすい姉貴っスけど……こんな短時間でそれがわかるなんて、さすがっスね……?」

「え……やっぱり、そうなんだ……?」




自分で聞いておきながらではあるが、その答えにやはり少しは驚いた寿也……。その後も、大河からは話の続きがされる。




「しかも……もう、8年も片想いしてるんスよね〜。佐藤先輩と違って、あっちの先輩はそれに全く気付かないみたいだし」

「は、8年っ……!?って……じゃあリトルの頃から、ずっと……?」

「ええ、まあ……。茂野先輩が全くの音信不通で福岡にいる間も、他の男に興味なかったみたいスからね」




聞いた年数への驚きから、目を丸くしたままになっている寿也に、さらに大河からの言葉が続いた。




「姉貴のは、片想いが長期間に渡った分、超強力な筋金入りになってるみたいっスよ……?相手があの茂野先輩じゃあ、長期になるのも無理ないっスけどね」

「そう……吾郎くんは、少しも気付かないんだ……」

「まあ……姉貴の方も、いい年して超がつくオクテなんで……。昔っから見ててイラつく位、先輩へのアプローチも全くしませんからねぇ……。正直、恋愛を進行させるには最悪の相性の2人っスよ」




大河の答えを聞きながら、ふと吾郎の事を見る寿也。相変わらずの呆れ顔で、薫の向かいに座っているその姿に寿也が思う。




(男としてだけ言うなら……ごく普通に、女の子には興味ありありの吾郎くんだけどなぁ……)




男子寮だからこそ、な、雑誌やDVDは部員達の間でいくらでも出回っている。

普段、その1つ1つにちゃんと集中する吾郎の姿は、どこにでもいる当たり前の青年そのものだ。

と、なると……決して、恋愛に全くの無関心と言うわけではないはずなのだ……。




(そう言えば……今まで、1人の女子に的を絞った話はした事がないけど……女子との接点なんて殆ど無いこの環境じゃ、絞るも何もなかったしなぁ……)




自分の思考の内容で、思わず苦笑してしまった寿也……。吾郎へと合わせていた目線を、その向かいで引きつり笑顔になってしまっている薫の方へと向けた。




(8年か……そんなに長く一途でいるなんて……。それだけ想いが強いって事なら、その分、辛い時も多かっただろうな………)




薫を見ながら、物思いにふけっている寿也の様子……それを見て、大河の声がかけられた。

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