〜恋人と呼べる人〜
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カチャンッ………
シャワーを終え、プライベートルームに続くドアから監督室内へと入ってきた薫。
すっかり着替えも終えたその姿を見て、机に向かっていた静香からの声がかかる。
「あら……もう着替えたの?ちゃんと温まった?」
「はい。あの……お洋服までお借りしちゃって、本当にすみませんでした」
静香へと、ペコリと頭を下げた薫。それを見た静香が、にっこりと笑う。
「とんでもな〜い!それに、あなたが謝る事なんてないじゃない。元はと言えば、バカ茂野が悪いんだもの」
「ア、ハハハ………」
まだ、そう呼ぶんだ……?と、思いながら苦笑してしまった薫……。その表情を眉を下げたものへと変えてから、静香へと問いかける。
「あ、あの……申し訳ないんですけど……濡れた服を持って帰るビニールとかをいただけませんか……?」
「え……?ああ、そんなのはいくらでもあるけど……。もし、清水さんにまだ時間があるなら、その服は乾燥機に入れちゃえばいいんじゃない?」
「か、乾燥機に……ですか……?」
「ええ。その服の量なら、1時間もあれば乾くでしょ?その間はここにいてもいいし、寮内見学しててもいいし……好きにしてていいわよ?」
「け、見学なんて……あたしが、しててもいいんですか……?」
「ええ、もちろん。ただし……部員の私室に入る事だけは、危険だから絶対に駄目だけどね?」
冗談ぽい口調で、ウインクまでした静香からのその答え。それを聞き、薫は再びの苦笑を浮かべてしまうのだった。
と、そこへ………
コンコンッ……!
監督室のドアへのノック音が響き渡る。
「は〜い、どうぞ〜!」
すかさず返された静香の答えが終わると、すぐにドアが開き始める。そして、そこから姿を現したのは、ジャージ姿の寿也、吾郎、大河の3人であった……。
「失礼します」
「は〜い!いらっしゃ〜い!」
挨拶をしながら先頭で入ってきた寿也……。そして静香は、3人に向かってにっこり笑顔での返答をした。
だが、しかし……その笑顔が恐いものに感じた吾郎と大河は、無言のまま横目でお互いの顔を見合う。
と……そんな2人の様子を見てから、スッと笑顔を消した静香からの怒声が飛ばされた。
「まずは、清水くんっ……!届け物がなんだかは知らないけど、お姉さんを使うとは何事よっ!?」
「は、はい……すみません………」
静香の隣りに立つ薫を、一度チラッと見てから謝った大河……。その姿を、ハラハラした表情で見つめた薫の横で、静香からの怒声が続く。
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