〜恋人と呼べる人〜
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コンコンッ……!
それは、監督室のドアがノックされた音……。室内で、机に向かい座っていた静香の声が返される。
「は〜い!入ってもいいわよ〜?」
(え……う、うそ……女性の、声………?)
聞こえたその声に、驚きの表情となった薫……。その横に立つ寿也が、ドアノブへと手をかける。
「失礼します……」
ドアを開けると同時に発せられた寿也の声。それに合わせて顔を上げた静香が、入って来た寿也へと普段通りの声をかけ始めた。
「あら……佐藤くんじゃない?練習は、どうした……の………」
その声の途中……寿也の後から現れた、びしょ濡れの薫の姿が静香の目に映る……。と………
ガタンッ……!!
座っていた椅子を、倒しそうな勢いで立ち上がった静香……。その後、まるで叫び声のような言葉を発した。
「な……な、何っ、なんで女子がいるのよ……!?し、しかも、その格好は……!?一体どういう事なの、佐藤くん……!?」
「すみません、早乙女監督……実は………」
頭に手をやり困った表情で、起きてしまった事への説明をし始めた寿也……。
その説明がされている中で、自分の目の前に立つ驚き顔の静香の姿に、薫の方こそも驚いてしまっているのだった。
(こ、この人が、監督……?すごい……び、美人………)
その後……寿也からの簡潔だがわかりやすい説明を受けた静香から、薫へと声がかけられる。
「事情はわかったから、とにかく着替えましょう。このままじゃ、風邪を引いちゃうわ」
自身のプライベートルームへ誘導する為に、薫の肩に手を添えた静香。歩き出すその前に、寿也へと振り返った。
「佐藤くんは、ここに清水くんとバカ茂野を呼んできてくれる?もちろん、あいつにもちゃんと着替えをさせてからね」
「あ、は、はい……。一応、茂野くんには着替えをするように伝えてはきましたけど……」
静香からの吾郎に対する言いように、苦笑いとなった寿也からのその答え……。だが、それにはいたって真面目な監督としての言葉が返される。
「あの茂野くんが、ちゃんとそうしてるかわからないでしょ?まだ4月のこの時期なんだから、肩を冷やさせたりしちゃ駄目よ」
寿也を見つめ、少し強めとなった静香のその口調。
それに合わせるように、寿也の顔つきも真剣なものへと変わった。
「はい、わかりました……!清水さんを、よろしくお願いします。それじゃあ……後でまた戻るから」
薫に向かいそう言うと、静香へと一礼してから監督室を出て行った寿也。その姿を見送っていた薫に、静香からの声がかかる。
「さあ早く、こっちよ。ゴメンナサイね……うちの部員が、迷惑かけちゃって……」
「い、いえ、そんな……あたしが、弟の練習姿を見たいなんて言った……から……ックシュンッ……!」
語尾にくっついた薫のくしゃみ。それを聞いた静香が焦り始める。
「やだやだ……!ほら、早くシャワーを浴びてちゃんと着替えないと……!」
慌てて薫の背中を押しながら、プライベートルームへと入ってゆく静香であった……。
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