〜恋人と呼べる人〜

********************





コンコンッ……!


それは、監督室のドアがノックされた音……。室内で、机に向かい座っていた静香の声が返される。




「は〜い!入ってもいいわよ〜?」



(え……う、うそ……女性の、声………?)




聞こえたその声に、驚きの表情となった薫……。その横に立つ寿也が、ドアノブへと手をかける。




「失礼します……」




ドアを開けると同時に発せられた寿也の声。それに合わせて顔を上げた静香が、入って来た寿也へと普段通りの声をかけ始めた。




「あら……佐藤くんじゃない?練習は、どうした……の………」




その声の途中……寿也の後から現れた、びしょ濡れの薫の姿が静香の目に映る……。と………



ガタンッ……!!



座っていた椅子を、倒しそうな勢いで立ち上がった静香……。その後、まるで叫び声のような言葉を発した。




「な……な、何っ、なんで女子がいるのよ……!?し、しかも、その格好は……!?一体どういう事なの、佐藤くん……!?」

「すみません、早乙女監督……実は………」




頭に手をやり困った表情で、起きてしまった事への説明をし始めた寿也……。

その説明がされている中で、自分の目の前に立つ驚き顔の静香の姿に、薫の方こそも驚いてしまっているのだった。




(こ、この人が、監督……?すごい……び、美人………)




その後……寿也からの簡潔だがわかりやすい説明を受けた静香から、薫へと声がかけられる。




「事情はわかったから、とにかく着替えましょう。このままじゃ、風邪を引いちゃうわ」




自身のプライベートルームへ誘導する為に、薫の肩に手を添えた静香。歩き出すその前に、寿也へと振り返った。




「佐藤くんは、ここに清水くんとバカ茂野を呼んできてくれる?もちろん、あいつにもちゃんと着替えをさせてからね」

「あ、は、はい……。一応、茂野くんには着替えをするように伝えてはきましたけど……」




静香からの吾郎に対する言いように、苦笑いとなった寿也からのその答え……。だが、それにはいたって真面目な監督としての言葉が返される。




「あの茂野くんが、ちゃんとそうしてるかわからないでしょ?まだ4月のこの時期なんだから、肩を冷やさせたりしちゃ駄目よ」




寿也を見つめ、少し強めとなった静香のその口調。

それに合わせるように、寿也の顔つきも真剣なものへと変わった。




「はい、わかりました……!清水さんを、よろしくお願いします。それじゃあ……後でまた戻るから」




薫に向かいそう言うと、静香へと一礼してから監督室を出て行った寿也。その姿を見送っていた薫に、静香からの声がかかる。




「さあ早く、こっちよ。ゴメンナサイね……うちの部員が、迷惑かけちゃって……」

「い、いえ、そんな……あたしが、弟の練習姿を見たいなんて言った……から……ックシュンッ……!」




語尾にくっついた薫のくしゃみ。それを聞いた静香が焦り始める。




「やだやだ……!ほら、早くシャワーを浴びてちゃんと着替えないと……!」




慌てて薫の背中を押しながら、プライベートルームへと入ってゆく静香であった……。

[ 116/173 ]

[前ページ] [次ページ]

ページ指定は下記jumpより

[しおりを挟む]
[作品リストへ]
[トップへ]






×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -