〜恋人と呼べる人〜

「や、やば………」




そして………

その言葉を最後に……寿也と同じく、吾郎の動きもピタリと止まった……。




「…え……な、何………?」




どう見ても、普通ではない2人の様子……。その視線の的となっている我が身を、薫は恐る恐る見下ろしてみる。




「うっ……そおぉ〜〜!?な、何これ、冗談でしょおぉ〜〜!?」




真っ赤になって叫び、慌てて自分の胸元を両手で覆った薫。

と、ここでようやく……見てはいけないはずのものがとりあえず隠された事により、吾郎からの謝りの声がかけられる。




「わ、悪りぃ、清水……ミスっちまった………」




薫同様の頭から濡れた姿で、やってしまった事に対してか?はたまた見てしまったものから受けた衝撃のせいなのか?未だ腰が引けたまま動けずにいる吾郎……。

そしてこの中で、唯一濡れていない寿也が自らの練習用ユニフォームを脱ぎ始める。



パサッ………



この場で、どうする事も出来ず自分の体を抱いていた薫……。その肩に、そっと寿也のユニフォームが掛けられた。

薫の体を包む為の大きさが十分にあるそのユニフォーム……それを本能的に両手で引き寄せ、自分の胸元をしっかりと隠した薫に声がかかる。




「ごめん……ちょっと汚れてるけど……我慢して………」




その声と行動に、思わず寿也へと振り返った薫……。

そこにあった、薫から目線を外したまま赤ら顔となっている寿也の様子に、自分の現状を改めて思い返してしまった薫の顔が一気に染まる。

これ以上は無いほどの熱さを自分の顔に感じながらも、薫は礼を伝える為の言葉を寿也へと返した。




「あ、あの……あ、ありがとう……寿、くん………」




と、ちょうどそこへ………




「お〜いっ……!誰か、そこにいるのか〜〜?」




プール内から、響き渡るように聞こえてきたコーチの問いかけ……。そのせいで、瞬時に表情を真顔に戻した寿也が、吾郎へと伝える。




「まずいよ……!僕は早乙女監督の所に清水さんを連れて行くから、吾郎くんはこっちのコーチに説明しといて……!!」

「お、おう……!わかった……!」




この姿の薫を、このまま大勢の男の前に晒すわけには当然いかない……。その思いが合致した吾郎と寿也が、それぞれ動き始める。

薫の背中を軽く押し、ドアへと向かい出した寿也……その逆方向となる、プール内へと進み出そうとしていた吾郎に、再度、寿也からの声がかけられた。




「吾郎くんも、肩が冷えないうちに着替えるんだよっ!わかった……!?」




キツイ目線で、そう吾郎に釘を刺した寿也。それに対し、振り向いた吾郎が右手を上げる。




「わかってるよ……!ちゃんとすっから、清水のこと頼んだぜ」

「うん。さあ、行こう清水さん」




再び、薫の背中を押し始めたアンダーシャツ姿の寿也に、薫からの声が返される。




「あ……う、うん………」




頭からかぶった水……それが今も、乾いている部分に徐々に染みこんでくる事がわかる……。

そんな自分と同様のはずの吾郎……それが気になり、薫は吾郎へと振り返った。




「早く行けよ、清水……!ほんとすまねぇ……俺が悪かったよ」




右手を縦にし、謝りの仕草をしながらの吾郎からの声……。あげくには、珍しい反省色の濃いその表情を見て、薫の目が僅かに丸くなる。

が……すぐに吾郎の表情が変わり、ジト目で「さっさと行け!」を表す手の動きをして見せたいつも通りの様子に、ホッと出来た薫。

その後……吾郎の事が気になりながらも、更衣室から足早に出て行く寿也と薫であった………。

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