〜苦手?生意気?可愛い後輩?〜 全16P

「わ、わわっ、う、うそっ……!?で、出た、出たっ……!?」

「あ……?って、おい……なんだ、そりゃ?そんなに、驚くことねぇだろが!」

「だ、だって……絶対に本田は出ないだろうと思ってかけてたから……ああ〜びっくりしたぁ……」

「ちょうど家から電話があって、今、切ったばっかだったんだよ。ま……確かにこのタイミングじゃなきゃ、こんなすぐには出なかったと思うけどな」

「そうだったんだ……。あ、じゃあ、今って電話してても平気なのか?」

「ああ、ちょうど部屋にいるだけの時間だからな……と……そういや昨日、初めて海堂(ここ)でお前の弟に会ったんだぜ?もう、あいつが入学する時期になってたんだな」




それこそ、初めて寮にいる吾郎にかけたこの電話……。だが、吾郎はそんな事を全く気にもせずに、いきなり平然とした口調で語り始めた。

携帯画面のその名を見ただけで、胸まで鳴らしてしまった自分とのこの大きな違いに、薫には思わずの苦笑が浮かんでしまう。

長い長い自分の片想いなど、少しも気付く事のないこの相変わらずの吾郎らしさ……。それもよくわかっている薫は、苦笑したままの表情で答えを返し始める。




「ったく、もう……。カレンダーをよく見ろよ?それに、本田達は春季県大会の地区予選が終わったとこじゃんか?それが、まさに春を表してるのにさぁ……」

「いちいち大会の名前なんか気にしてねぇっての。今やってる大会の事と、次の大会が何日後だってのしか頭にねぇ生活してっからな。何回か大会が終わったら、もう春だったって感じなんだよ」

「あのさぁ……いくら海堂が全大会フル出場の強豪校でも、大会の名前もわかってないのはきっと本田位なんじゃないのか……?」

「んな事ねぇよ……!まぁ……寿はそういうのもいちいち覚えてるヤツだけどよ〜他のヤツらは俺と一緒だって」

「たぶん、違うと思うけどなぁ……」




寿也だけが覚えているのではなくて、吾郎だけが覚えていないとしかどうにも思えなかった薫の小声でのその言葉。それに、吾郎からの言葉が返される。




「は……なんだって?」

「え……ああ、なんでもない、なんでもない!それよか、今回の大会も優勝おめでとうな?この大会でも活躍したおかげで、本田もすっかり有名人じゃんか」

「な〜にが有名人だよ!マスコミ(あいつら)が、親父達の名前で勝手に大騒ぎしてるだけだろが!俺にとっては、ただのいい迷惑だっての……!」

「そっか……まあ、本田にとってはそうかもしれないよなぁ……」




はっきりと不機嫌を表した吾郎の声にそう答えながら、薫は自分の手元にある新聞や雑誌の山に目をやった。

前大会で初めて海堂の投手として出場し、その実力を世間に見せつけた吾郎の事が書かれた記事。それは、今大会でますますその数を増やし、多くの新聞紙上やスポーツ雑誌などに写真付きで載っているのだ。



吾郎にとっては、ただの迷惑なこの大騒ぎ……。

だが、ちょうど今、その全ての記事を綺麗にスクラップ帳に貼りつける作業をしていた薫にとって、吾郎の情報を得る事が出来ると言う点においては、ありがたいとも言えるマスコでの大騒ぎなのだ。

とは言え、まさかそんな本音を吾郎に言えるはずはなく、薫は別の話題に切り替えようと試みる。




「なあ、大河は元気にしてるのか?あいつってば、海堂に入学してからまともに連絡もよこさないから、うちの親も気にしてるんだよね」

「あ?ああ……元気だぜ?今日も一緒に『野球』したけどよぉ、ほんとお前の弟とは思えないセンスをあいつは持ってるみたいだよなぁ」

「ムッカァ……なんだよ、それ……!あたしだって、今は聖秀のエースピッチャーなんだからな……!」

「へえ〜お前がエースかよっ!?つか……聖秀ソフト部って、そんなに人員不足なのか……?」

「…あんたって……昔から、つくづく頭にくるヤツだよなぁ……?もう、電話切るから……」

「わははは……!マジにとるなよ、冗談だっての……!そうそう、清水に聞きたい事があったんだけどよ、お前と大河って似てるよな?」

「は……?大河とあたしが、似てる……??」




吾郎からの、思いもしないその質問。しかもそれは、今までに誰からも聞かれた事のない質問であった。

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