〜苦手?生意気?可愛い後輩?〜 全16P

そして、始まった吾郎の5打席目………


最初の2球は、冗談抜きのデッドボールスレスレとなり、冷や汗もので避けた吾郎。

その後の3球目は、外角に大きく外れた……。

このまま放っておけば、嫌でもフォアボールになりそうなこの場面……だが……そんなものをじっと待つつもりはまるでない吾郎の瞳が、次にきた4球目のボールによって光る……。




(インコース、低めのストレート………!!)




先程、2度もデットボールになりかけた恐怖心はないのか……?と思えるそのインコースの速球に合わせ、吾郎のバットが振られた。



カキイイイィィンッ………!!



若干バットの根元よりに当たったそのボール……で、あったのだが……これもまた吾郎の渾身のフルスィングによって、打球は見事に外野席へと飛んでゆくのだった……。



その後……ホームインした吾郎を、点差があるにも関わらず大勢のメンバーがベンチから出てきて笑顔で迎える……。

この当たり前の光景が……今までの海堂にはなかったのだ………。

ベンチ内で、それを心からの笑顔で見つめ続けた静香であった……。




*************




海堂にとって、最終とするべき9回表開始のその時……井沢監督から、ピッチャーとして眉村の名前が告げられる。

それにより、ベンチからマウンドへと向かおうとした眉村に、ニッと笑いながらの吾郎の声がかけられた。




「よお、眉村……!今日の俺は絶好調だからよ〜なんなら、すぐに変わってやってもいいぜ?」




どう見てもご機嫌だとわかる様子の吾郎へと、目線だけを送った眉村からの答えが返る。




「もう少し我慢するんじゃなかったのか……?お前が投球するのは、全てが万全になってからだと言っていたはずだ」

「ちぇっ……とは言ったけどよぉ……やっぱ、それが今日でもいい気がすんだけどなぁ」




ふてくされたような表情でそう答えた吾郎……それに対して、少しも顔色を変えない眉村が歩み出しながらの声を返した。




「お前の投球は、次の大会からにしろ……。今日のところは、俺に花を持たせておけ」

「花ぁ……?って、なんだよ?どこにあんだそんなの……」

「ああ、ほら!それは後で教えるから、今は守備につこう茂野……!」




苦笑いの国分に背中を押され、ベンチを出た吾郎。

その後、ライトの守備位置につき、相変らずの鉄仮面だな……と、心の中で思いながらマウンドに立つ眉村の背中を見つめた。



あの背中を追って、海堂に入学した……。追い抜く為に、努力もしてきた。

今の自分は、あの背中からどの位の距離にいるのだろうか……?

そしてその位置は、あの背中よりも前……それとも後ろ………?



ケガを負ってしまった今の自分では、眉村との位置比べをする事さえも出来ない。

万全になったその時は……せめて、あの背中と並んでいたい………そんな風に思った自分に吾郎は苦笑する。



その後……「ライト茂野」への仕事を与える事なく、3人の打者をあっという間に三振に打ち取った眉村……。

それと同時に、試合終了のサイレンが球場に鳴り響いたのだった……。




海堂学園高校の優勝で終った、秋季関東地区大会………

その中で、急遽、決勝戦にのみ出場した吾郎の守備とバッティングの内容によって「ライト茂野」の存在にマスコミの注目が集まり始めた。

それにより、実は投手だったと言う事……そして、元プロ野球選手の「茂野」と、あの「本田」の息子である事もすぐに明らかにされてしまう。

そこで更に興味深く吾郎を調べ始めたマスコミには、右足にケガをしていた事と、その原因さえも見事につかまれてしまったのだ……。

校内で起きた事故の真実……それが明るみに出た事で、海堂学園高校は春の選抜甲子園の筆頭候補校としての話を学校側から辞退する事となるのだった……。



その結果………吾郎達に残された甲子園は、夏のみとなる…………。

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