〜苦手?生意気?可愛い後輩?〜 全16P
海堂側の予想通りに「レフト眉村」の活躍のシーンが何度もあったこの試合……。
それが8回の表となった今……海堂はピンチを迎えていた……。
フォアボールと、センターオーバーのヒットでノーアウト2、3塁の場面を作ってしまった阿久津……。
この時点での点差はすでに8対2となっている為か、ベンチはまだとても好調とは言えない阿久津を下げるつもりはないらしい。
この場面……次の5番バッターには、当然の犠牲フライ狙いが予測され、海堂の選手達は誰に指示される事もなくバックホーム体制となるのだった……。
そして投げられた、阿久津の1球目は………。
カキイイィィンン………ッ!!
チーム唯一の左打ちのバッターによって、バットの芯でとらえられてしまった打球……それは、大きくライト方向へと飛んでゆく……。
初めて自分の後方へと飛ばされたそのボールを見て、瞬時に予想される落下地点へと掛け出す吾郎であった……。
「やったあああぁぁ―――!!」
「よぉ〜〜し……!!この飛距離なら、海堂へさらに1点返上だぞっ……!!」
ライトの守備位置よりも僅か後方に、空高く飛んだ打球……。
落下するまでに、余裕で進塁する事も出来たこの見事な高さの犠牲フライによる加点を信じ、誰もが似たような事を叫び大騒ぎとなっている相手側のベンチ内……。
だが、決してそうなるとは思えていない寿也は、立ち上がりながらマスクを放り投げ、しっかりとミットを構えた。
(さあ、来いっ……!!吾郎くんっ……!!)
パシイッ………!
ライトの吾郎が打球をキャッチしたその音と同時に、3塁ベースを蹴ったランナーがホームへと走り出す。
それを見たセンターに立つ国分からは、大きな叫び声が上げられるのだった。
「いっけええぇぇ、茂野―――!!バックホームだ―――っ!!」
「絶対に………盗らせねえぇっ―――!!!」
ビシュウウウウゥゥ………!!!
思いきりしならせた左腕で、吾郎の渾身の返球がされる……。それは………
ドオオオオォォンッ………!!!
ノーバウンド……そして見事なコントロールにより、寿也の構えたミットへと収まった吾郎のバックホーム……。
その結果……絶妙な寿也のガードと合わせて、ランナーは余裕ともいえるタッチアウトとなったのであった……。
「なっ……う、うそだろ……!?」
そう真っ先に声を上げてしまったのは、ホームへと滑り込んできたランナー……。
そして次に……相手ベンチ内からの声が上がり始める……。
「あ……あの距離から……ノーバンでの返球だとォ………?な、なんてヤツなんだ………」
「だ、誰なんだよ……あのライト………?今まで、見た事がない選手だよな……?」
本日既に、打席においては4打席中3打席でヒットを打っている吾郎……。
あげくには、たった今見せつけられたかなりの強肩をも持つ吾郎を、海堂の公式戦データにも載っていない控え選手だとばかり思っていた事で、しばし呆然とする相手チームの面々なのであった……。
「よっしゃあぁぁ〜〜!!これで、ツーアウトだぜっ……!!」
「すごいぞ、茂野〜〜!!やったなあぁ〜〜〜!!」
相手ベンチに注目されているなどと気付く事もなく、ガッツポーズをした吾郎。と……その隣りのポジションにいる国分が、バンザイしながらかけた声……。
そんな2人を見ながら、他のメンバー達も歴代の海堂の試合としてはあまり見せなかった表情で喜び合うのだった。
(…変わる………海堂の『野球』は、茂野くんによってきっと変わるわ………)
メンバー達と同様の喜びの表情を浮かべてそう考えているのは、本日、特別にベンチに入れる事になった静香だ……。
その静香へと、監督の井沢からの声がかけられた。
「ほう……。どうやら、実力も人格も……静香お譲さんがおっしゃっていた通りの選手のようですなぁ……?」
「すごく元気な子でしょ……?それを、井沢監督にもわかっていただけたみたいで嬉しいわ」
「確かに……あれでは、とても今までの我が校の枠にははまりそうには無い……。間違いなく、退部候補者でしたでしょうになぁ……」
そう言うと、微かに笑った井沢……。その横で、まさに吾郎を退部させてようとしていた過去を持つ静香も、思わず笑ってしまうのだった……。
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