〜苦手?生意気?可愛い後輩?〜 全16P

〜苦手?生意気?可愛い後輩?〜




暑かった夏が過ぎ、季節がようやく秋めいてきた10月初旬のある日………



突然、海堂学園高校 厚木寮を訪れ、吾郎との勝負を要求してきた見知らぬ男子学生がいた……。

それに応じた吾郎と、あくまでも3球だけでと約束を交わし行われたこの日の勝負。

吾郎にとって全く物足りない投球数ではあったが、右足に負ったケガのせいでずっと禁じられていた全力投球が出来た事……そして、勝負相手の能力の高さを感じた事で、吾郎の心の中に大きく印象づけられた勝負となったのだった。



その勝負後……相手が薫の弟の大河であると知り、驚きを隠せなかった吾郎……。

そんな吾郎にとって、この日、特待生として海堂に入学する事を決めた大河は、来春から後輩となる事にもなった初勝負の日であった……。



その後……海堂(ここ)で大河との『野球』が出来る日を楽しみに感じながら、次回の再勝負までにパワーアップをする約束も果たす為にトレーニングを続けていた吾郎……。

そんな日々の中、寿也や眉村を中心とした新1軍が9月に行われた秋季県大会に優勝していた事で、次のステップとなる秋季関東地区大会へ出場する日が近付いてきていた。

そしてこの頃には、右足のケガからの完全復帰が目前となっていた吾郎であったが、まだ100%の力は出せない自分だからと、前大会に続き今大会も出場を見送る事に決めた吾郎なのであった……。





*************




時は10月下旬となり………

秋季関東地区大会……決勝の日………



他の2軍選手達とともに、厚木グラウンドでトレーニング中であった吾郎。

その吾郎を呼びながら、2軍監督の静香が大慌てで駆けつけてくる姿が見える。




「茂野く――ん!!」

「あ……?んだよ、そんなに慌て………」



グイィッ………!!



問いかけの言葉も終わらぬうちに、すぐ傍まで辿り着いた静香に思いきり腕を引っ張っられた吾郎。

そして静香は、そのつかんだ腕を引っ張りながら、走って来た道を戻る為にグルッと体を反転した。




「お、おわっ……!?おい、こらっ!!一体、なんだってんだよ――!?」

「説明はあとっ!!今からすぐに千葉まで行くから、車の中でしてあげる――!」




その言葉を聞き、腕を引かれ走らされ始めていた吾郎に驚き声が上がる。




「ち、千葉って……まさか、大会へ行く気かよ!?今日は決勝戦だってのに、なんかあったのかっ……!?」

「あったから、あなたを連れて行くのよっ!!いいから、早く……!!」




静香からの叫ぶような答えを聞き、吾郎の顔つきが真顔に変わる。そして………



グイッ………!!



「えっ、ちょっと……!?キャッ……!!」




自分が引っ張っていた腕を持ち替えられ、吾郎が静香の腕を引っ張る形に変わり走り出された事によって上がった静香の驚き声……。

それに、吾郎の声が返される。




「なんかよくわかんねぇけど、この方が駐車場まで速ぇだろっ……!大体、広すぎんだよ、ここは……!!」

「やっ……ちょっ……あ、危ないわよっ………!」




吾郎が言った通り、かなりのスピードアップをした2人……。

ほとんど足が地につかない状態になっている静香の必死な声を聞きながら、駐車場までトップスピードで走り続けた吾郎であった……。





*********************





静香が運転する車で千葉へと向かい始めた2人……。

助手席に座った吾郎へと、運転しながらの静香からの説明がされ始めていた……。




「はあっ……!?遠征先の宿で、1軍メンバー達が倒れてるだと〜!?」

「ええ……。まだ早朝の寝静まってる頃から、外野手の部屋の何人かが吐き出して……あげくに熱も高いらしいのよ」




猛スピードで、車を飛ばしながらの静香からの言葉……。

その話の内容だけでは無い理由で、顔色が青ざめている吾郎の声が返される。




「な、なんだよ、それ……?怪しいウイルスか、なんかなのか……?あの丈夫な、あいつらがさぁ……」

「まだ、病院に行き始めたところだから、それがわからないのよ……!でも……彼らが、10時からの試合に出場出来ない事は確実よ」

「そ、そりゃそうだろうけどよ……一体、何人が倒れちまってんだよ?わざわざ俺を呼びにこなきゃなんなかった位なのか……?」

「はっきり何人かはわからないけど……どう控えと折り合わせても一人足りないって連絡があったのよ」

「って……そんなにピッチャーが足りなくなっちまってんのかよ……!?眉村はどうなんだ?あいつも倒れちまってんのか……!?」

「最初に言ったでしょっ!?倒れだしたのは、外野手の子が中心の部屋なのよ……!茂野くんなら決勝戦相手に対しての打撃力も申し分ないし、ライトの守備も出来るだろうから連れて来いって言われたのよ……!」

「へ……お、俺が……ライトに………?」




静香からの言葉に、唖然とした吾郎なのだった………。

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